転生したバーテンダーは異世界でもシェイカーを振りたい

酒と食

第1話 プロローグ

「……これでおれも一国一城の主ってやつか……」


 季節は春。ここは東京。とある街の昼下がり。星野ほしの みなとは安堵と期待が入り混じった不思議な感覚を味わっていた。


 バーテンダーとして……、いや漠然とした飲食業への憧れだけで地元である北海道のBarに飛び込み、押しかけ同然に働き始めてから今年で二十年。銀座に構える今の店に移ったのは五年前だが、バーテンダーとしてはひとかどの腕になったと自負している。


 去年の今頃か……、独立開業を心に決めてからのこの一年、仕事の合間を縫ってひたすらに物件を探していた。


「あんないい物件に出会えるなんて……」


 思わず笑みも零れ落ちる。巨大なターミナル駅から少しだけ離れた路面店となる物件を手に入れることができたのだ。これは僥倖と言っていいだろう。家主との話し合いも無難にこなし、店舗の設計も建築士の資格を持つ設計士と入念に詰め工事の発注も完了した。


「後はこのお金を振り込めば工事が始まるっと……」


 工費振込先の銀行がメインバンクでなく、ネットでの振り込みすらできないようなマイナー信金であったためみなとは引き落としたかなりの大金を抱えて振込先である信金を目指していた。


「あった……。なんであんな所にあるのかな……」


 やっとのことで目的地である信金を視界に捉えたみなとは勇んで横断歩道を渡る。


 パーーーー!!


 鳴り響くクラクション。突っ込んできた信号無視のトラックに轢かれたみなとは完全に意識を失うのだった。

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