第56話 側近達
「まったく……」
付き合いきれないとばかりに、ルートヴィッヒが大袈裟な溜め息を吐き出す。その気持ちはよくわかったので、エルンストは苦笑いで肩を叩いてやった。
「さて、フリックに昨日の話を聞きたいんだけど」
人払いを済ませた部屋まで移動し、話を促すと、フリックは「ああ」と頷いて真剣な表情を浮かべた。
「これはあくまで、一人の男の想像だが……」
昨日、タッセルから聞いた可能性を話すうちに、ルートヴィッヒとエルンストの顔色が変わった。
「心の病気だの転生だの魔王だのと……そんな訳ないだろ!」
エルンストが普段へらへらと笑みを浮かべることの多い顔をむっすりと歪めて憤慨した。
「魔法協会や教会に連れて行くというのもな……ガルヴィードが本当に「もう一人の自分」なんてものを持っているのか確信がないうちは、あまり目立つ行動はしたくない」
ルートヴィッヒも難しい顔で言う。他の二人もそれに同意した。
「もうとっとと結婚させちまおう!くっつけちまえば上手く行くよ、あの二人は」
口では「嫌い」だの何だの言っているが、あの二人は昔からお互いしか見えていないのだ。「何か」だかなんだか知らないが、あれだけ一緒に居れるなら問題ないだろうとエルンストは思う。
よしんば、本当に「もう一人のガルヴィード」が居たとしても、何も出来やしないだろう。ルティアさえ傍にいれば、ガルヴィードは体の主導権を渡したりしない。絶対に。
ガルヴィードはルティアと出会ってからはずっとガルヴィードだったのだ。「もう一人」のことなど、気にせず忘れてしまえばいい。
「それもそうだが……俺は一応、もう少し調べてみるよ」
フリックが前髪を掻き上げてそう言った。
三人の会話が途切れたところで、窓の外をガルヴィードがふらふら歩いていくのが見えた。
騎士団の訓練場の方へ歩いていくので、久しぶりに剣の稽古でもするのかもしれない。
王太子が剣を鍛えるのであれば、自分達も付き合わねばならない。三人はざっと立ち上がって部屋を出た。
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