第44話 無駄じゃない抵抗
「お前、ロシュアに何かしたか?」
「あん?」
フリックに尋ねられて、ガルヴィードは首を傾げた。
「ルティアの兄貴か?別に何も」
「嘘吐け。お前のことをゴミを見るような目で見てるじゃねぇか」
「元々だろ」
ロシュア・ビークベルは穏やかな性格と地味ではあるが柔らかく好ましい容姿を持った好青年で、人当たりも良い人気者なのだが、ガルヴィードのことは常に暗く据わった目で見る。「妹の敵は俺の敵」ということだろうとガルヴィードは気にしていなかったが、フリックは今日のロシュアはひと味違うと感じていた。
「今までは「薄汚れた紙屑」を見るような目だったけど、今日は「どろどろに腐敗して虫の涌いた生ゴミ」を見るような目なんだよ」
「どっちにしろ臣下が王太子を見る目じゃねぇな」
フリックの首を傾げながらの言葉に、エルンストが苦笑いを浮かべた。
「それより、そろそろルティア嬢が来る頃だな。俺達は退散しようか。ガルヴィード、後でね」
「おう」
エルンストとフリックと入れ違いのようにしてルティアがやってきた。
「とりゃあ!」
入ってくるなり掛け声と共に飛び込んできたルティアを受け止めて、ガルヴィードは溜め息を吐いた。「何か」が嫌がって逃げ出すまでルティアがくっつくという作戦を説明したところ、ルートヴィッヒから「どこまでいちゃつけば気が済むんだ」とさんざん説教されたのだ。昨日はガルヴィードもいい作戦だと思ったのだが、側近からさんざん叱られ詰られ罵られたせいで、今日は若干心が折れかけていた。
「いきなり飛び込んでくるな」
「いきなりで驚いた「何か」が逃げ出すかもしれないじゃない!」
ルティアは「二人で「何か」が嫌がることをしよう!」と息まいた。
「嫌がることっつったってなぁ……お前のことは嫌がっているけど」
「じゃあ、私に今までにされて一番嫌だったことは?」
ガルヴィードは「ふむ」と考え込んだ。
「嫌……というか、一番衝撃を受けたのはそりゃズボンを下ろされたことだけどよ」
初対面の衝撃は忘れられない。その後に続いた言葉も含めてだが。
「じゃあズボン下ろすね!」
「なんでだよ」
なんの躊躇いもなくとんでもないことを宣言されて、ガルヴィードは思わず頭が真っ白になった。
「だって、嫌なんでしょ」
「嫌というか……おいやめろ手を放せ」
有言実行しようとするルティアの手を掴んで阻止する。一国の王太子たるもの、そう簡単にズボンを脱がされる訳にはいかない。
「邪魔しないでよ!」
ルティアは不平を漏らして暴れるが、ガルヴィードはそれを抑えて説得する。
「落ち着け!」
「どうして邪魔するのよ!大人しくしてて!」
「大人しく伯爵令嬢にズボンを脱がされるような王太子でいいのか!?国民が泣くぞ!」
軽く突き飛ばして距離を取ると、ルティアは悔しげに顔を歪めた。
「くっ……無駄な抵抗はよせ!」
「無駄じゃない!国民のために全力で抵抗するぞ俺は!」
あの国の王太子は伯爵令嬢にズボンを脱がされたなどと笑い者にされて国民に恥をかかせる訳にはいかない。王太子としての努めだ。じりじりと迫る伯爵令嬢から矜持を守り通すため、ガルヴィードは構えを取った。
一触即発の空気が流れる。
好敵手である二人の胸には決して負けられないという想いが漲っていた。
ルティアは覚悟を決めた。
「勝負よ……!脱がした方が勝ち!行くわよ!」
「おい、ちょっと待て、脱がした方って俺は何を脱が……」
「うりゃあああっ!」
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