第38話 子供時代
「どう思う?」
揃って廊下を歩きながら、他の二人に尋ねてみる。
「いやあ、あんだけ想い合っててなんで「結婚はしたくない」なんてほざいてるのか、意味がわからないよね」
「二人とも「結婚は無理」っていう癖に、ずっと一緒にいるつもりなんだよなぁ」
エルンストとフリックが呆れ顔で言う。
ルートヴィッヒは周囲に人影がないのを確認して、今し方聞いた話を二人に打ち明けた。
二人は最後まで表情を変えずに聞いて、聞き終えた後もしばし無言だった。
「ふむ」
ややあって、エルンストが唸った。
「その話を聞いて思い出したんだけどさ。俺は子供の頃、ガルヴィードのことが怖かったんだよな」
乳兄弟で一番付き合いの長いエルンストの告白に、他の二人はぎょっと目を見張った。エルンストはそんな二人に構わず続ける。
「子供の頃のガルヴィードってさ。外の世界のことには興味がなさそうっていうか、誰が話しかけても無関心で、気に入らないことがあると不機嫌になったり怒鳴ったりはしたけど、喜んだり笑顔になったりしたことはなかった。いつでもぴりぴりした空気を放ってて、にこりともしねぇから、俺はあいつのことあんまり好きじゃなかったね」
エルンストの言い分には唖然とさせられたが、ルートヴィッヒもフリックも、言われて思い出してみれば確かに幼い頃のガルヴィードはぴくりとも笑わない子供だった記憶がある。
王太子の遊び相手として侍っていた彼らだが、ガルヴィードは何をしていてもむっつり黙り込んでいることが多く、時折我慢ならないように顔を歪めるので彼の周りは常に張りつめた空気が流れていた。
それが変わったのは、ルティアと出会って以降だ。
ルティアとくだらない勝負を繰り返すうちに、ガルヴィードは嘘みたいに生き生きするようになった。
「もう一人いる、か……」
フリックが低い声で呟いた。
「もしも、それが本当なら、今の殿下はもう一人の殿下を抑えつけて表に出ているということか……」
ありえない、荒唐無稽な話のはずなのに、頭ごなしに否定することが出来なかった。以前、ルティアと会えなくなった時に、ガルヴィードが生ける屍のようになったことが思い出されたからだ。あのままルティアが戻ってこなかったら、ガルヴィードは幼い頃のように笑わない人間になっていたかもしれない。
「そんなことがあるのか……魔法協会に知り合いがいるから、聞いてみようかな」
フリックは魔力値が高い。宰相の息子という立場から魔法協会に所属することはなかったが、一度見学に行ったことがあり、その際に出会った魔法使いとはたびたび連絡を取っている。魔法協会からはあの夢の後には何度か勧誘が来ていて、少しでも戦力を増強したいという意志をひしひしと感じる。
「連絡したらまた勧誘されそうで嫌だけど……」
「魔力値が高い奴は大変だねぇ」
溜め息を吐き出すフリックの肩を叩いて、エルンストが苦笑いを浮かべた。
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