第37話 一緒に
「お前達に指摘された通り、俺は常にルティアばかり構って、ルティアを見るや急に元気になって勢いよく絡んでいくだろ?」
「さすがに自覚したか」
「おう。それでな……上手く説明できないんだが、俺の中にもう一人いるって話」
ルートヴィッヒは持っていた本を置いて、怪訝な表情を浮かべながらもガルヴィードに向き直った。
自分の中にもう一人別の誰かがいる、など、噴飯ものの言い訳であるが、ガルヴィードはどうやら本気でそう言っているようだ。
「頭がおかしくなったと思われるだろうが……最後まで聞いてくれ。俺には俺と、もう一つ俺じゃない「何か」があって、俺と「何か」は常に争っているんだよ。その「何か」は俺を抑えつけて、俺の前に出たいんだ。つまり、この体を俺から奪いたいんだと思う」
荒唐無稽な話だが、ルートヴィッヒは口を挟まずに最後まで聞くことにした。ガルヴィードは真剣な面持ちで、冗談を言っているようには見えない。
「俺はずっとその「何か」に抑えつけられていた。でも、ルティアの前にいる時だけは、俺の方が強くなれたんだ。抑えつけるそいつを跳ね除けて、俺のままでルティアと接することが出来た。俺を支配したいそいつからしたら、ルティアは邪魔だろ?だから、そいつはルティアのことが嫌いで、俺にもルティアのことを嫌わせようとしてくる」
ガルヴィードはふーっと長い息を吐いた。
「ルティアが先に気づいたんだ。あいつ、「俺」が嫌いなんじゃなく、「俺」の中にいる「何か」が嫌いだって言った。それで、俺も自分の中にルティアを嫌う「何か」がいることに気づいた」
ガルヴィードは自分の胸元を指さして、ルートヴィッヒに訴えた。
「俺がルティアと結婚したら、ルティアは俺の中にいる「何か」とも結婚しちまうことになるだろ?俺もルティアも、それが嫌なんだよ」
「……」
ルートヴィッヒは何と言っていいかわからずガルヴィードの胸元を眺めた。くだらない妄想だと一蹴してやりたいが、ガルヴィードの表情は真剣で、目にも迷いがない。
「この「何か」を俺の中から追い払えさえすれば、俺は……」
その時、ドタドタドタ!と荒々しい足音が響いて、部屋の扉が勢いよく開けられた。
「ガルヴィードっ!!」
「ルティア?」
突如現れたルティアを見て、ガルヴィードがソファから腰を浮かす。そんなガルヴィードに、ルティアは勢いよく飛び込んで腹に頭突きを食らわせた。
げふっ、という呻きと共に、ガルヴィードが腰を上げかけていたソファに沈み込む。ルティアは彼の腹に腕を回してぎゅーっと抱きついた。
「ガルヴィード!どこも痛くない?苦しいとかない!?」
「い、痛いし苦しいわ……テメェ、いきなり」
「えええ、どこ!?どこが痛いの!?息が苦しいの!?お、お医者さん!お医者さんを呼んでーっ!!」
どう見てもガルヴィードが痛いのは腹に頭突きを入れられたせいだし、苦しいのは力一杯に腹を締め上げられているせいだ。しかし、ガルヴィードの答えを聞いたルティアはより一層力を込めてガルヴィードを抱きしめる。
「なんの騒ぎ?」
エルンストとフリックが顔を覗かせる。ルートヴィッヒは彼らに向かってふるふると首を振って見せた。
「もう嫌!なんであんな夢を見せられるの!?なんで私がアンタから引き離されなくちゃいけないの!」
ルティアが叫んだ。
「私は一緒に戦うからっ!置いていかないで!!」
そう叫んで泣きつくルティアに、ガルヴィードは言葉を失った。
ルートヴィッヒが立ち上がりエルンスト達と共に手を振って部屋から出ていった。
二人きりになった部屋で、ガルヴィードはそっとルティアの肩を抱いた。
『一緒に戦うから』
出会ったばかりの幼い頃に、ルティアがくれた言葉を、ガルヴィードは覚えている。
クローバーを差し出しながら、少女は笑顔で言ったのだ。
『私も一緒に戦いますよ。だから、絶対負けないでください』
その言葉がどれだけガルヴィードを救い、その後の彼女の行動がどれだけガルヴィードを支えてきたのか。
誰にもわからないだろう、と、ガルヴィードは思う。
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