第18話 夢の話
腕の中で小さな子供がふぇふぇと泣いている。
ロシュアは片手で子供を抱き、もう片方の手で妹の手を掴んでいた。
荒れ果てた街の中を、必死に走っている。
「兄様……私はいいので、戻ってください!兄様まで裏切り者と呼ばれてしまう……」
ルティアが悲痛な声で言った。
ロシュアは歯を食い縛った。
気づくのが遅かった。自分の愚かさに嫌気がさす。
「ダメだ!お前の子は……この子だけは守らなければならない!僕達の……最後の希望だ!!」
ロシュアは叫んだ。
「もう間違わない!!もう二度と!!」
***
ロシュア・ビークベルは目を覚ましてすぐに自分の周囲を確認した。
いつもの自分の部屋だ。ビークベル家の王都の邸である。
鏡を見ても、映っているのは十八歳のいつもの自分だ。夢の中の自分は三十歳ぐらいに見えた。
「未来……か?」
ロシュアは首を傾げて呟いた。
大人の容姿になっていたが、夢の中の自分が手を引いていたのは紛れもなく妹のルティアだ。
ということは、腕の中の小さな子供は。
「甥を抱っこした」
「なに!?いつ産まれたのだ!?」
朝食の席で息子がぼそりと漏らした一言に、父親のドーリア・ビークベルががたりと立ち上がった。
「ルティア!どうして母様には抱かせてくれないの!?」
「抱けるようなものを産んでおりません!!」
母親のキャサリン・ビークベルに非難されて、ルティアは真っ赤になって怒鳴った。
「いきなり何を言うのですか兄様!!」
「いや、夢で小さな英雄王を抱っこしていたんだ。間違いなくアルフリードだった。三、四歳くらいかな」
夢の中の子供の大きさを思い出しながら、ロシュアが言うと、キャサリンがハンカチを噛んで悔しがった。
「息子に先を越されるなんて!おばあちゃまが一番に抱っこしたかったのに!!」
「おのれロシュア!父を差し置いて甥を抱っこするとは!」
「夢の話でしょ!?」
何故か本気で拳を握って悔しがる両親に、ルティアは突っ込みを入れた。最近、周囲の人々がまだ産まれてもいない子供を既に存在しているかのように扱うのがすごく怖い。この間なんて母が産着を買っていてルティアは頭を抱えた。
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