第9話 衝撃の事実





 ガルヴィード・ヴィンドソーンは王太子である。

 王太子ともなれば、将来国王となった時のために既に側近が決められて常に傍に侍っている。

 その筆頭である侯爵家嫡男ルートヴィッヒ・ハウゼンと、宰相の息子フリック・デューラー、乳兄弟であるエルンスト・シュミットは頭を突き合わせて悩んでいた。


「頭脳明晰といえばギュンター伯爵家のスヴェルド様だろ」

「いや、人格者を選ぶべきだ。クロケット男爵家のヘンドリク様しかいない」

「俺はフラゴナル子爵家のヨゼフ様がいいと思う」


 三人は真剣な顔つきで同世代の貴族令息の中から「英雄の教育係」を選んでいた。


「まだ産まれてもいねぇのに、何でだよっ!?」


 その横で吠えているのはこの国の王太子である。


 このところ、周りがまだ影も形もない「英雄」をいる前提、産まれる前提で話を進めてくるのが恐怖でしかない。

 あの夢以来、ガルヴィードの都合などお構いなしで毎日自室にルティアが放り込まれてくるのだ。いきなり王太子の部屋に放り込まれるルティアも不本意だろうが、いきなり伯爵令嬢を自室に放り込まれるガルヴィードも不本意だ。そんなにほいほい令嬢を投げ込んでいいのか。王太子の部屋だぞ。もっと気を遣え。どいつもこいつも即物的すぎる。

 そんな日々に嫌気がさして、気の置けない側近達と馬鹿話に興じようかと思ってみれば、彼らは英雄誕生後の子育て計画に夢中でガルヴィードを完全無視だ。

 前世で聖女でも殺したんだろうか俺、とガルヴィードは前世の自分を疑った。


「産ませねぇっつってんだろ!!誰があんな女と!!」


 ガルヴィードがもう何度言ったかわからない台詞を繰り返すと、ずっとガルヴィードを黙殺していたルートヴィッヒが顔を上げて目を眇めた。


「あんな女と言うが……逆に、お前はルティア嬢以外と結ばれる選択肢があるとでも思っているのか?」

「は?」


 ガルヴィードは目を丸く見開いた。


「よく考えてみろ。お前はルティア嬢と出会ったその日から、お茶会でもパーティーでも舞踏会でもルティア嬢以外のご令嬢とはいっさい関わっていない」



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