第8話 二人でテキーラ・サンライズを
私と暁さんが、琥珀亭に並んで座っている。私たちが揃って店に入ったとき、尊さんは心底嬉しそうな、ほっとしたような顔で迎えてくれた。そんな彼を見る暁さんの顔がどこか照れていて、それでいてしんみりしてた。
信吾は就職したい旨をレンタルショップの店長に打ち明けたところ、そのまま正社員に誘われてしまった。相変わらず腕に返却DVDを積んで走り回ってる。
私はというと、レンタルショップを辞めて、琥珀亭のバーテンダーに専念している。真輝さんが育児を終えるまでって話だけど、出来るなら居続けたいな。『エル ドミンゴ』が嫌なわけではないけど、暁さんとのことで周囲に気を遣わせたくないし、何よりここで繰り広げられる人の営みが好きだから。
皆、少しずつ移り変わって行く。こうして二人並んでカウンターに座りながら、私はしみじみ思った。
彼がお気に入りの『テキーラ・サンライズ』を飲んでいる。朝日を模したカクテルはどんどん減っていき、最後に真っ赤なグレナデン・シロップが彼の口に到達する。
その赤いシロップは私。やっと会えた甘い蜜。
私はレッド・スパークルを指で小突いた。
私はグレナデン・シロップ。そして、レッド・スパークルの女。絶え間なく閃光を走らせて、彼を染める。
ねぇ、知ってる? 太陽の寿命は五十億年あるんだって。私の朝日はきっと、死ぬまで二人を照らしてる。最後のときまで、キスをしよう。あの日のように。朝日が昇る限り。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます