(12)

 騎士ならば……この太平の時代であっても……狩りの時にでも嗅いだ事の有る臭いだった。

 血の臭い……。

 血抜きされていない肉が焼ける臭い……。

 だが……焼かれているのは、哀れな獣ではない……。哀れな人間だ……。

 「司祭」達と「魔導師」達の対立により……伝説に有る「魔界」の1つ……二派に分かれた魔物達が永遠の戦いを続けると云う「慟哭の戦場」の如き状態と化した宿場町を……我々は、一心不乱に駆け抜けた……。

 ここでも……そうだった……。

 王都の状況とは正反対であるが故に瓜二つ。

 魔導師達は……「国教会」の者達のみならず……庶民が信じている弱小宗派の僧侶・司祭達をも虐殺していた。

 いや……むしろ……このような場合は……弱き者や貴族の庇護の無い者から先に殺されるらしかった。

 我々は……次の宿場町との中間地点あたりで馬を降りた。

 太陽はとっくに沈み……たまたま満月だったお蔭で、夜でもここまで駆けて来る事が出来た。

 思えば……この探索の旅が始まってから……初めての野宿だった。

「畏れながら……」

「貴様は俺に『畏れ』など抱いておるまい」

 例によって……隣国の王子と、その護衛の騎士の口論が始まった。

「差し出がましいとは思いまするが……」

「お前が、最後に、差し出がましくない事を口にしたのは、何ヶ月前だ?」

「この国の王女殿下との御婚礼の儀、保留とし、我々は国に帰るべきかと考える次第です」

「はぁ?」

「この国の王女殿下と御夫婦になると云う事は……御二人が我が国とこの国の共同統治者になると云う事です」

「判っておる。それがどうした?」

「そうなれば……殿下は、この混乱した国を立て直す責務を負われると云う事」

「このようなモノ……一時の混乱に過ぎぬ」

「ですので……本当に一時の混乱に過ぎぬかを見極めた上で……」

「ふざけるな。それ以上、言えば……お前を我が国とこの国の間を引き裂かんとする反逆者と見做し……」

「結構でございます。『戦乱の時代なら戦場で果てろ。太平の時代なら主君に諫言して死を賜われ』が我が一族の家訓……」

「即断出来かねる話は、別の日にしろ。もう、俺は寝る」

 そう言って、王子は……一同に背を向けて横になった。

「一つだけ言っておく。俺の乳母だったお前の母は……言わば……俺のもう一人の母だ……。母親を悲しませるのは……俺も望まん」

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