まさかのメリークリスマス
富本アキユ(元Akiyu)
第1話 まさかのメリークリスマス
今日は12月24日。クリスマスイブだ。今年もまたこの季節がやって来た。
憧れの出版社で働くようになって四年目。
私は、地元の飲食店やデートスポット等を紹介している地元雑誌を作っている。
クリスマス特集で様々なデートスポットを紹介した先月の雑誌の売れ行きは、とても良かった。今月の正月初詣スポット特集と初売り特集もヒットし、売れ行きが良かった。次の二月の企画は、バレンタインデー。
私はバレンタインデー特集を作る為、編集部に残って作業を進めるのだった。
私の短所は、夢中になったら周りが見えなくなるところだ。
パソコンに向かい、集中して編集作業をしていると、スマホのバイブ音が鳴った。
「ああっ!?まずいっ!?大変!!」
最悪だ!!
私は、急いで編集部を後にした。
「はぁはぁ……。すっかり遅くなっちゃった。急がないと!!」
残業で遅くなった私は、彼とのクリスマスデートの待ち合わせの時間に遅刻しそうになっていた。
この前も仕事のせいで一時間も待たせてしまったから、さすがに今日も遅刻する訳にはいかない。
仕事なんだろ?仕方ないさ。
優しい彼は、前の時そう言ってくれたけど、やっぱり何度も待たせる訳にはいかない。しかも今日は、集中しすぎて時間に気づかなかった上に、連絡もしていない。最悪だ。慌てて彼に遅れるとメッセージを送る。
「はぁはぁ……。はぁはぁ……」
急いで待ち合わせ場所である駅前まで走っていく。
これだけ走ったのは、いつぶりだろう。
肩から息を切らせて、ようやく待ち合わせ場所に辿り着いた。
しかしそこに彼の姿はなかった。
もう待ち合わせの時間から三十分が過ぎていた。
「……怒って帰っちゃったのかな?」
彼に電話をかけてみる。しかし電話には出ない。
メッセージを送ったが、既読もつかない。
それから更に三十分が過ぎた。
もう待ち合わせの時間から一時間が過ぎた。
まさかどこかで事故に巻き込まれたりしていないだろうか。
そんな心配をしていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返るとそこには、サンタクロースの格好をした彼が立っていた。
「やぁ。お待たせ。ちょっと君を驚かせようと思って着替えてたんだ」
「あはは。何よ、その格好。クリスマスだから?」
「もう怒って帰っちゃったのかと思ったわ」
私はホッとしながら話した。
「君は仕事を毎日一生懸命頑張っているのは知ってるからね。きっと今日も仕事が忙しいんだと思ってたよ」
「そうなの。思ったよりも長引いちゃって…。また遅刻しちゃったわ。ごめんなさい」
「いいさ。僕も今日は遅刻だったんだ」
「そんな事よりも君にプレゼントがあるんだ。受け取って欲しい」
そう言うとサンタの彼が手を挙げた。
するとどこからかノリの良い明るい音楽が流れ出した。
一人の男の人が突然、踊り出した。
「あっ!!ねぇ!!あの人見てよ!!踊ってるわ!!」
「あっ、ほんとだ。上手いね」
そしてその男の人が、隣の女の人を指差した。
子連れの女の人と子供も踊り出した。
「ええっ!?何!?なんかのイベントがあるの!?」
そして周囲の人が次から次へと踊りだした。
フラッシュモブだ。
音楽は進む。盛り上がっていき、サビへと突入した。
そして、ついに彼も踊りだした。
「ええっ!?あなたも踊るの!?」
彼のダンスも、なかなかキレがあって上手かった。
結構練習したんじゃないだろうか。
曲は終盤に近付いていき、次第に彼中心のダンスになっていった。
そしてダンスが終わり、私に跪いて指輪を見せた。
「僕と結婚してください」
「えっ!?ええっ!?えええーー!?」
私は驚いて、しばらく言葉が出てこなかった。
そして少し涙が出てきた。
「……はい。よろしくお願いします」
すると彼は、私を抱きしめてキスをした。
「キャーッ!!」
「わぁあああああ!!!!」
「やったぁあーーー!!!!」
「おめでとうー!!!!」
その瞬間、周囲の人達から拍手と歓声が巻き起こった。
「えっ!?何!?一体何が起こったの!?」
「実はネタ晴らしをするとね……」
これは彼が仕組んだサプライズプロポーズだった。
彼はSNSを使い、サプライズプロポーズに協力してくれる人達を募集した。
そして今日、彼の為に多くの人が集まってくれたらしい。
沢山の人達が近づいてき、私達に祝福の言葉を投げかけてくれる。
「よかったね。一生仲良くしてね」
「僕達も凄く温かい気持ちになれたよ。良いクリスマスプレゼントありがとうね」
私は今日、サンタさんから人生最高の贈り物を貰った。
そして――
その瞬間をカメラが捉えた。
私の働く編集部の編集長が、カメラで写真を撮っていた。
「これね。二月号に載せるから。編集部のスタッフ中島。
彼氏から駅でフラッシュモブでサプライズプロポーズされて大成功。タイトルは――まさかのメリークリスマス」
「えええーーー!?編集長!?それは恥ずかしい!!それは勘弁して下さいよ!!」
この時はまだ知らなかった。
二月号の雑誌の売れ行きが、歴代最高の売れ行きになることに。
まさかのメリークリスマス 富本アキユ(元Akiyu) @book_Akiyu
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