第14話 5歳になりました。2




「いててて……えらい目にあったなぁ。」


「いや、えらい目にあったのは俺達ですよ!」


「いやぁ~みんな強いっすよね。」


訓練と言うか大乱戦が終わって夜の帳が降り始めた頃、自分達は屋敷に帰ってきて昼のことを話していた。

ところで夜の帳ってカッコいい言い回しだよね、うん、だから使いたかっただけなんだ。

何にしろデリックとダリルを連れて裏庭で軽く体を洗い、館内に戻ると兄達も戻ってきていた。


「遅いぞアレクシス、もうみんなが揃っているぞ。」


「いやアランお兄様、自分達は父さんに吹き飛ばされたので……」


そう、あの乱戦が始まってすぐに、父さんとブラッドローさんまでいつの間にか参加していて、何とか強敵をスルーして場をかき混ぜていた自分達3人は大剣とハルバートに吹き飛ばされたのだ!


幸い手加減をしていたようで、吹き飛とばされて地面に叩きつけられただけですんだ、それで待機していた衛生兵の回復魔法で回復して、やはりアランお兄様とアルフ兄さんに殴り飛ばされたアルバート兄さんとアレックス兄さんと帰ってきて、着替えと治療がちゃんとされてるか確認してから食堂に来たので遅れたのだ。


……いや、自分で言っててあれだけど、吹き飛ばされたのっておかしくない? こっちは5歳児だよ?


そんなことを考えているとアランお兄様に手招きされる、そして兄弟の座る席の列びの末席に座る。デリックとダリルは他の兄弟の乳兄弟が座る場所に座り、周りの人達と話し始めた。


自分も兄弟達と雑談していると、大扉が開き父さんがブラッドローさんと母さんを引き連れて入ってくる、それを見て自分を含めたみんなは一斉に席を立つと父さんと母さんが席に座るのを待つ。


「うむ、みんなご苦労だった、今日の宴会は我々の帰還とアランとアルフ、それに皆の功績を称えるためのものである、おおいに飲み食いをして鋭気を養ってほしい!」


そう言うと父さんは置かれていたカップを手に取り掲げ乾杯としめる。


「乾杯!」


「「「乾杯!!」」」


これに食堂に居た50人近い人が乾杯を返して宴会が始まったのだった。




「うーん、やっぱり変だよね、戦場から帰還したその日に僕達の訓練を見に来て参加するのって。」


「変って言うなよ、それに親父やブラッドローのおっさんも参加してただろ。」


「いや、アルフ兄さん、兄さんはあの2人と一緒にされて嬉しいの?」


「……俺はあそこまで脳筋じゃないぞ!」


「うんうんそうだね、僅差だけども違うよね。

それよりも父さん、メンヒス公国との戦いはどうなの?」


「アルバート!?」


アルバート兄さんの冷たい言葉に、アルフ兄さんはショックを受けていたけど、自分も含めて今ここにいるほとんどの者がこの質問の答えを聞きたかったらしく、食堂は静まり返る。

この食堂、大広間にもなるんだけどこういう家の者や家臣が集まるときには大食堂になるんだよね。

なので今ここに居るのは幹部クラスや候補ばかりで信用のおけるものばかりなので、父さんはためらうことなく話し始める。


「正直に言えばあまりよくないな、メンヒスの軍は壊滅状態だが、どこから湧いたのか魔物の大群の攻撃により我が国もそれなりの被害を受けた。

様々な国々が支援と援軍を送ってくれているが、前線に着くまでにまだまだ時間がかかるだろうから決着はまだつかんだろうな。」


「でも父さん、メンヒスはどうやって魔物を集めて操ってるのかな? ゴブリンやオークは知性が低すぎてこちらを敵としか見ないし、オーガとかになると使役が難しいはずだし。」


「アレックスの言う通り疑問なのだが、どうやらメンヒスはコントロール仕切れていないようなのだ、メンヒスから農民などが難民として逃げ出して来ていてな、ただ途中で……魔物に食われたりしているようで数は少ないのだが。」


アレックス兄さんの質問に父さんが答える、そして少し間をおいてから衝撃的なことを口にした。

その言葉にアルバート兄さんにアレックス兄さん、そして戦場に行かなかった家臣達も驚き衝撃を受けている。


「……苗床と食料にと差し出されたのかな?

あの国は確か都市は城塞都市のはずだから、そこだけ助かればいいと考えたのかも。」


そして俺のつぶやきにさらに周りの皆が驚く、だがそんな俺に同意するようにアルバート兄さんとアレックス兄さんが意見を言う。


「……確かにメンヒスの民は表面的には……ヘズオンだったっけ? そのヘズオンを信仰してたけど、実際にはチエルルナ様を筆頭とする神々を信仰していたらしいからね。

公王や幹部からは奴隷扱いされてたらしいし、あり得るかもね。」


「でもさ、農民が死んだら食料はどうするつもりなんだろ? 魔物だって食料が無くなれば城塞都市に攻め込むと思うし、次は自分達の番だと考えないのかな?」


「うーん、可能性が有るのは追い詰められて仕方なく実行した、何かの対策が有ったから、特に何も考えてない。この3つかな?」


「実質2つだね、アレクシス。

でも対策か……テイマーが使役してる可能性は、ないか、魔物が腹を空かせれば真っ先に食われるだろうし、この数をコントロール出来るテイマーを集めるなら傭兵なりを集めた方が楽だしね。」


「アルバート兄さん、魔導具はどうかな? そういう魔導具がダンジョンから出ることが有るって聞いたよ。」


「あー、でもそれもなぁ……」


「アレックス、それはお兄様が見たことあるぞ、だがあれはコストが高すぎるから今回の規模では使えないだろうな。」


アレックス兄さんが言ったのは、テイマーが魔物を強制的に従わせる魔導具だ、だがアランお兄様が否定する。

理由はコストが高すぎるからだそうだが、さらに短時間しか効果がないとも続けて教えてくれる。


「……ねぇ父さん、前から思ってたんだけどメンヒスが信仰している神って、邪神じゃないの?」


そして前々から疑問に思っていたことを口にすると、食堂は一気に静まり返った。




「……アレクシス、その言葉を軽々しく言ってはなりません、その言葉を口にすれば口にした者と耳にした者が恐怖をいだき、その恐怖に彼等が興味を持ちこちらを見てくるかもしれないからです。」


静まり返った食堂で、最初に声を出したのは母さんだった。


何時ものポヤポヤした雰囲気は鳴りを潜め、真剣な表情で自分をそうたしなめてくる。

だがそんな母さんの顔を見ながら俺は反論する。


「母さん、邪神ごときを恐れる必要はありません。

我々には神々がいて、一緒に戦ってくれるはずだからです。

それに自分が負けて死んでしまい魂が捕らえられたとしても、神々が戦いに勝ち救い出してくれるのを待てばいいだけなのですから。」


俺がそう言うと母さんは驚き、周りから感嘆の声が上がる。


「なんと豪気な!」


「5歳児とはいえ、やはりブラックウッド家か……!」


家臣さん達の声と共に、兄弟達も自分を褒めてくれる。


「流石はアレクシスだ、お兄様は誇らしいぞ!」


「そうだな、邪神ごとき叩き斬ればいいんだよな!」


「邪神って頭が悪そうだよね?」


「そう言えば邪神を関知すると捕まえて何処かに送っちゃう魔導具が有るらしいね!」


うん、なんか変なこと言ってる兄弟がいるけど、実は自分が邪神を恐れないのには理由があるんだよね。


自分は嬉しそうにこちらを見てくる両親を見返しながら、1ヶ月前、自分の5歳の誕生日の事を思い出すのだった。



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