お金でまぁまぁ転生、特に波乱万丈ではない人生を歩みます。
バリ君
第1話 お金で異世界転生を買う。
「お、お金で異世界転生を買えるんですか!?」
俺は驚きながらも目の前にいる超常の存在に聞き返す。
「ええ、ちょっととある大企業の大株主になって優待してもらおうと思ったんですが、なかなか高値になってしまって資金が少しきついんですよ。
まったく誰ですか、ブ○ボンの株を買い占めてるのわ!」
そう言いながらタワーパソコンを使って何やら売り買いを続ける銀色の龍ドライト。
そしてそんなドライトを見ながら今言われたことを考える自分の名はというと、伴 慎一(ばん しんいち)と言い、25になったばかりの天涯孤独の独り身で、児童養護施設の門に捨てられていたために親の顔も見たことがない男だった。
名前はその時の園長先生夫婦がつけてくれたらしく自分の事を可愛がってくれたらしいが、自分が8才になる頃に引退したためにあまり覚えてない。
ちなみに名前の由来は伴はともなう、友や仲間に恵まれ夫婦は仲良く連れ添うように、慎一は間違いなく人生を歩み謙虚で心配り出来る人になれるようにと願ってつけてくれたそうだ。
なんにしろそんな自分は今は何処かの会社のオフィスのような所に居た、普通は真っ白で何もない世界にちゃぶ台とかだと思うのだが、何故か多くのデスクがあり、そこに目の前にいる龍とソックリなのが座りパソコンに何かを打ち込んだり何処かに電話をしたりと忙しく働いている。
「それで慎一さん、状況は分かってますよね?」
「……自分は、死んだんですよね?」
銀龍ドライトの言葉に俺は何があったのかを思い出す、ドライトによるとそれは10日前の事で、俺は宝くじ売り場からどしゃ降り雨の中を必死に荷物と懐の財布を守りながら走っていた。
「やっぱり店で雨宿りしてればよかった!」
真冬の1月の雨は俺の体を容赦なく冷やし熱を奪っていく、なぜそんな中を傘も差さずに走っているのかと言うと、それは30分ほど前の事だった。
ぞくに言う清掃系のブラック企業に勤めている俺は、夜勤の仕事が終わり帰れると思ったところで上司に捕まり、掃除道具を綺麗にしろと言われ掃除道具の手入れをしてから会社を出た、もちろん残業代なんかでない、上司も心得ててタイムカードを押したところで命じてきたからな。
何にしろすでに昼の11時を過ぎていたので、フラフラになりながらも全国展開している某スーパーに入ると、真っ直ぐにお酒売り場に向かいプレミアムなビールを見ながらこのスーパーのプライベートブランドの発泡酒を2本、思い直して3本を買い物カゴに入れる。
「……最近飲む量が増えたな、はぁ。」
最近、眠いのに眠れないので仕事の時間に眠くなってしまい失敗を繰り返し、理由を先輩に言ったら酒を飲めと言われ言われたままに初めてお酒を飲んだら眠れたので、こんな風に疲れたときにツイツイ酒の力に頼るよなってしまった。
そんな自分に俺はため息をつきながら惣菜売り場に向かうが、タイミングが悪かったのか録なツマミが無く他に何かないかと店内を見回す。
チラリと鮮魚売り場が目に入るが、刺身など高くてツマミとして買えないので目を離しスナック菓子でも買うかと菓子売り場に向かおうとして思い直す。
このスーパー、週の何日かに安売りをしていて鯵の干物や鯖の塩干しなどを格安で売る時があるのだ、俺は自分のアパートの冷凍庫に残っている物を考えながら向かっていくと、ちょうど顔見知りの男性店員が鯵の干物を補充していた。
「お、何時もの兄ちゃん、ここらに良いのが有るぜ!」
顔見知りの店員さんの言う通りにそこには他よりも大きな鯵の干物が有った、俺は店員さんにありがとうございますと言いながらその中でも大きめの物を3枚選び籠に入れる。
すると店員さんがそっとマグロの刺身の柵を横に置く、それには昼なのに半額のシールが貼られていた。
「昨日の残りでな、もうすぐ撤去しなきゃなんだ。」
その言葉に俺は深々と頭を下げて刺身を籠に入れる。
「今日はご馳走です、ありがとうございました!」
「いいってことよ、頑張んな!」
俺は先ほどの疲れなど吹き飛び、ルンルン気分でレジに並ぶ。
そして顔馴染みのレジのおばちゃんにも、今日はご馳走だね、お疲れ様!
そう挨拶されて自分もお疲れ様です、っと挨拶をしてさらに気分よくなって店を出る。
すると外はいつの間にか暗くなっており、おや? っと空を見上げると空は真っ暗な雲で覆われていた。
『そういえば上司が雨になるって言ってたな……』
俺に仕事を押しつけて先に帰った上司の言葉を思い出し、早く帰ろうとリュックを背負い直して買い物の袋を肩がけにする。
そんな自分の視線の端に、のぼりの立った小さな建物が映る。
それを見て俺はハッとして、アパートに帰るのを止めてその建物に向かう。
そこは宝くじ売り場だった。
なぜそんな所に向かうかと言うと、12月に年末ジャンボ宝くじを上司や仲間との付き合いで買わされて、持っていたのを思い出したからだ。
毎回夏と冬に皆買うので去年の年末ジャンボから付き合わされているのだが、支払日から1年経つと期限切れで無効になると聞かされていたので、ちょうど開いているなら調べてもらおうと思ったからだ。
「すいません、お願いします。」
「はい、連番30枚ですね。」
窓の向こうからそう確認されて頷くと、受付のおばちゃんはなれた手つきで10枚一組になった袋から宝くじを全て取り出すと、確認のための機械に差し込んでいく。
そして機械がカカカ……っと調べられた結果がディスプレイに当たりの枚数が表示される。
『1枚……2枚……へ? 漢字?』
当たり3枚、900円だなと思い当選金額のところを見るとそこには、
[高額当選]
っとだけ書かれていた。
そして受付のおばちゃんはニッコリと微笑むと。
「おめでとうございます、一等前後賞、10億円の当選です。」
そう俺に小さな声で言って宝くじを差し出してきたのだった。
俺はえっ!? っと驚くと共に、受け取った宝くじとおばちゃんを交互に見る。
するとおばちゃんは周りを気にしながら冊子を差し出してきて、
「そこには換金方法が載ってるからね、よく見てから換金に行くんだよ?
雨が降ってくる前に帰りなさいな。」
そう言ってくる。
俺はおばちゃんの言葉にハッとして、宝くじを内ポケットに入れると冊子を受け取りアパートに向かい歩き出す。
そして受け取った冊子を見て何処の銀行に行って手続きを等を周りを気にしながら歩いていると、冊子にポツリと雨粒が当たる。
俺は再度空を見上げると、次々と雨粒が落ちてくるのが分かった、ヤバイと思った俺はスーパーに戻るか迷ったが、胸の内ポケットに仕舞われた宝くじを気にするとアパートに向かって走り出す。
そして5分もすると雨はどしゃ降りになり、最初に戻るのだった。
そして俺はさらに10分ほど走ると自分のアパートに到着して、かじかむ手でなんとか部屋の鍵を開けると部屋に入り込む。
「ご、ご飯はもういいか……刺身も夜まで大丈夫だろうし、1度寝よう……」
そう言ってジャンバーを脱ぎ買ってきた物を冷蔵庫に入れ、布団を引くと気が遠くなり布団に濡れた服のまま倒れてしまう。
『ああ……換金したら院の弟や妹達に遅いクリスマスプレゼントを買ってやらなきゃ、それに引退した院長先生夫妻にもお金をあげて、院にも寄付して、田舎に畑の着いた家を買って……出来たらお嫁さ……ん、も……』
そんなことを考えながら、自分は意識を失ったのだった。
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