第7便
——————✉——————
……わかったわよ、もったいぶった私が悪かったようね。
単刀直入に言うと、
私は、この世界に……愛すべき人を見つけてしまった。
ずっと一緒にいよう、家族になろうと思えるくらいの相手に巡り合ってしまった。
よりによって、この世界で。
地球の家族を困らせたまま、ここで家族を築くか、
愛する人と別れて、地球に帰るか。
困っていた。
でも、なぜか、
この状況を、お姉ちゃんに言ったら、
「よかったじゃない」
とか言われたけど、
よかったの?
私はまだ、あなたと私がどんな関係なのかわかってない。
だから、ちょっと整理させてほしい。
私が最初の手紙で「地球に戻れそう」と言ったけど、その戻るための装置について。装置の詳しい仕様が書かれた書物によれば、
「転移してきた者の現在の状態を、転移前の時刻、場所に
つまり、私がこの世界に何年いたとしても、もしその装置を使って戻れば、私は20XX年5月、最後の土曜日の地球に戻る。そして、その状態から暮らしているのが、今のあなた。
……本当に、何も覚えていない?
あの、ドジでマヌケなデクノボー。
私の「おじいちゃん」が魔物にさらわれたときに急に現れて、「じいちゃんはどこだ」と尋ねてくる、デリカシーのなさ。
私が魔物と戦う戦士に選ばれ、皆が称賛する中、「いいからさっさとじいちゃんを捜せ」と言ってくる空気の読まなさ。
見ず知らずの私を孫として迎えてくれた「おばあちゃん」に会った——それまでの辛さから一瞬開放された私は大泣きしていた——時に、いきなり上から降ってきて鍋をひっくり返す注意力のなさ。
せっかくおじいちゃんと再会していい雰囲気の中、おじいちゃんが作っていたという物騒な魔法の作り方をだしぬけに訊いてくる、雰囲気ぶちこわし男。
もし今のあなたが、こちらで起きたことのすべての記憶をなくしてしまっているとすれば、
「私」には、帰る場所はない。
「私」が帰っても、「あなた」のように、この世界の記憶をもたないで暮らす。
「私」が帰らなくても、「あなた」がいるせいで、「私」のことは誰も気にもかけてくれない。
「私」は、故郷を失ったようなもの。
これが、本当に「よかった」の?
——————✉——————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます