転移する伝書鳩

@hoge1e3

第1便

 地球で暮らしている女子高生、来賀らいが 紗愛さあいは、朝目覚めると、見たこともない鳥が窓辺にいるのを見つけた。

 虹色の羽毛、鉤型のくちばし。鋭い眼光でこちらを見ている。そして、その足には手紙らしきものが結びつけてある。


 ……伝書鳩と呼ぶには無理があるが、手紙を持ってきているので便宜上「伝書鳩」と呼ぶことにする。


——————✉——————

 お父さん、お母さん、ごめんなさい。私が突然いなくなってしまって、慌てているでしょう。慌てている、以上だと思うけど、それしか言葉が出てきません。私がいるところは、お父さん、お母さんのいる世界ではないみたいです。20XX年5月の最後の土曜日の夜、私は起きたら知らない土地に迷い込んでいました。その後起きたことを、詳しく書きたいのですが、書いたものを鳩の足に結び付けると、重くて飛べなくなるからやめとけと言われました。……そんなわけで、私はここで元気に暮らしています。私はもうすぐ、お父さん、お母さんのもとに戻れそうです、が、……困ったことが起きています。これから先の話は、一方的に伝えても意味がない。お父さん、お母さんとお話をして、決めたいのです。この手紙を見たら、返事がほしいです。その伝書鳩に手紙を結び付けて。

 それから、ゼロとジュウは元気? ジュウが吐いて食欲なくしてたみたいだけど、小久保先生のところでリンゲル打ってもらったら元通りになったかな?


紗愛

——————✉——————


 紗愛が当惑したのは言うまでもなかった。これは「紗愛」からの手紙。そして、筆跡も自分自身のものであった。だが、こんな手紙を自分は書いた覚えがない。


 こんな怪文書に返事できるか、と、思った。今日、学校の「情報」の授業で「知らない人からのメールには絶対返信しないこと」とか習ったばっかりだ。SNS全盛の今なのにメールとかwなんてその時は思ったが、まさか紙媒体の、知らない人からのメールが来……

 いやいやいや

 知らない人じゃない、これは。

 間違いなく、自分の字だ。


 それに、飼い猫の状況までつまびらかに書かれている。真っ白な猫のゼロ、キジトラのジュウ。


 20XX年というのは今年だが、すでに今は12月。残念ながら、5月の最後の土曜日にジュウが吐いたかどうかまでは覚えていない。でも、近くの小久保動物病院に行って、リンゲルを打ってもらうと、すぐ元気になる、それは先週もそうだった。


 確信した。

 これは、私だ。

 何か困ったことがある、とあれば放っておけない。


 そう思って、メモ帳に書き始めた。


 

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