第34話 研究者は刺突姫とガチでやり合い共に沈む
ロイフェルトの放った『
ツァーリの左脇腹は、衝撃波によって深く抉られ、その傷は内臓まで達していた。左腕にも裂傷が刻まれ、中には骨まで達している傷もある。
しかし、ツァーリはそれらの無数の傷をマナを送り込みつつ、筋肉で無理矢理抑え込んで出血を最小限に留める。
吹き飛ばされても態勢を崩すことなくそれをやり遂げると、地面に足を付いた時には既に反撃の構えを見せていた。
「嘘っ?!」
『
効果の切れかけた『
それは今までの刺突と似て異なる異質な刺突。
ロイフェルトの『
蹴り足から生まれる推力を、足元から順に腰、身体、肩、腕と捻りを加えて増幅させつつ、最後は刺突そのものに伝え渡し、ありったけのマナを込めて
「クハハハハハハ!!」
(がぁぁぁぁぁこりゃ刺突のコークスクリュー?!)
哄笑を上げつつ壮絶とも言える笑みを浮かべるツァーリに対して、ロイフェルトはその刺突を、『
しかし、幾ら思考を高速化しても、この一撃を躱し切ることは不可能で、『
そう結論付けたロイフェルトは、その身でその刺突を受ける事を決意する。
(避けられそうもないなら……受け止めてから受け流す!!)
ロイフェルトは、ツァーリの刺突を体軸をずらしてなんとか真正面ではなく左肩で受け止めると、その瞬間力を抜いて刺突の衝撃を受け流した。
「っ!!」
「ガッ……」
木刀から伝わる感触に驚愕の表情を浮かべるツァーリと、受け流したといえども激しい痛みに苛まれるロイフェルト。
ツァーリの鳴神疾駆はロイフェルトの左肩を穿つが、激しい雷の追撃は結界術により表面を滑りドドーンと轟音を撒き散らすだけに留まり、刺突の衝撃は右肩から体の内部を廻って反対側の左半身へと伝わった。
力を振り絞り、全身全霊を込めた刺突が受け流され、上体が流されるままとなったツァーリと、その一撃を受け流して身体ごと彼女の懐に潜り込む形になったロイフェルトが勢い良く交錯する。
「グハッ……ゴボッ……」
『…………
ロイフェルトの左肘がツァーリの肝臓の近くを穿ち、それをまともに受けたツァーリが口から大量に吐血する。
ロイフェルトの一撃が、ツァーリの肋骨を砕き、内臓までも傷付けたのだろう。
対するロイフェルトも無傷とは行かなかった。受け流しはしたものの、ツァーリの刺突は右肩を砕き、また、刺突の衝撃と共に廻ったツァーリのマナが、彼の内部に深刻なダメージを与えていた。
そんな中、ツァーリは暫し唖然とした表情を浮かべていたが、それがゆっくりと笑みに変わる。戦闘中の壮絶な笑みではなく、なにやら満足げな柔らかい笑顔だった。
「ふふふ……うふふはは………ゴボッ……」
「……内臓まで傷ついてんだ……大人しくしとけって……」
「ふふふ……楽しいな……ロイ………お前とやり合うのはやはり楽しい……」
「……俺は……もう御免だね……こんなにしんどい思いは…………これっきりにしておきたい……」
「そうか……それは残念だ……」
「……まぁ……楽しかったってのは否定しない……でももうこれっきりだからな……」
「そう……か………まぁ、私も……取り敢えずは満足した……これだけの満たされたのは……いつ以来かな……」
「それなら……良かった……もう良いよな?」
「うむ……私も流石に限界の……よう………だ……」
「俺も……もう……ダメ…………」
二人はお互いにしか確認できないような掠れた声でそう会話を終えると、互いに全身から力が抜けてドサリともつれるように崩れ落ちた。
それを見届けたラーカイラルは、満足気に頷きながら二人の元に歩み寄る。
「ウム。見事な勝負だったな。結果は双方戦闘不能により引き分け……と言ったところか」
「馬鹿者! そんな事を悠長に言っておる場合か! 直ぐに二人を治療室に運ぶのじゃ!!」
観覧席からの王女の一言に、慌てて治療士達が二人に駆け寄り、担架にに乗せて治療室へと運び出したのだった。
「全くお主は……」
「なかなかの名勝負でしたな。実力が拮抗しておりましたので、かなり見応えがありました」
「それは否定せぬが、教師であるお主が観客となってどうする。いざという時に備えてことに当たるのが教師たるお主の役割でないか」
「それはそれ、これはこれですな。教え子の成長を願うことが我が使命ですので」
「妾には只々楽しんでいたようにしか見えなかったがな」
「それは穿ち過ぎというもので御座いますよ、ユーリフィ王女」
「……それでお主はどう見た?」
「甲乙つけがたい内容でしたな。ツァーリは自分自身の能力特性を正確に把握し、どうすれば強くなれるかよく分かっております。今後益々強くなるでしょう。対してロイフェルトはどう戦えば相手に勝てるのか、そこを追求出来る事が強みですな。今回はツァーリの勢いに流されていた感が御座いましたが、そもそも対決を引き受けた経緯が経緯ですから、そこはやむを得ないところです。彼は、勝利する事に拘りさえすれば、途中経過はどうあれどんな相手であっても勝利を掴む事が出来るでしょう」
「うむ……ロイフェルトの
「難しいところですな。個人的には魔法と分類してもよいかと思いますが、恐らくそうはならないでしょう」
「同感じゃ。神聖言語も神代文字も使われていないあの現象を魔法と呼ぶ事があらば、魔法社会を司っておる勢力が一つである教会が黙ってはおるまい」
「ですな。我が学園の一番のスポンサーである教会にとっては、神聖言語と神代文字によって引き起こされる現象が
「妾も聞いたことのない言葉だった」
「そもそも、呪文によって引き起こされた魔法現象ではなかったでしょう、あれは。俺には技の名前を言ってるように見えましたね」
「それは同感であるな。言葉を口にする前に、魔法現象が完結し、それをロイフェルトが上手く操っていたように見えた」
「観覧席で、俺達もそう結論づけました」
「まぁ、その辺はロイフェルト本人に聞くとしよう。二人はいつごろ目を覚ましそうかの?」
「ツァーリは傷が深いですし、ロイフェルトさんは治癒魔法が効きづらい体質ですから暫くは目覚めないのではありませんでしょうか?」
「……命に別状はないのじゃな?」
「それは問題無いと報告を受けておりますわ」
「ならば良い。どちらも喪うには惜しい人材じゃからな」
「お珍しいですわね。姫様がそこまで真剣に案じるのは……」
「どういう意味じゃ。それでは妾が部下も友人も顧みぬ冷血漢のようではないか」
「前回『妾は知識欲の奴隷なのじゃー』とかなんとか言って全く二人を案じた様子はなかったではありませんか」
「前回と今回では負傷の度合いがまるで違うではないか! ……全く……くだらぬ方向に話がそれたわ」
溜息を吐きながらアニステアから視線を外し、王女はラーカイラルとスヴェンに顔を向ける。
「それで、ロイフェルトの……敢えて言うぞ? ロイフェルトの
「
「それを力技で攻略しかけたツァーリは流石だったが、その後突如としてロイフェルトの動きが良くなっておったな?」
「まるで、ツァーリの動きを読んでいるかのようでしてが、それだけでは無いような気がします」
「終盤にツァーリの脇腹を抉った衝撃波も風魔法の応用かの?」
「圧縮した空気を弾けさせたように見えましたね」
「最後の肘打ちに至るまでの一連の動作にも、術が絡んでいるように見えたの」
「ロイは元々感知に優れた能力を持っていましたので、それを強化したのだと思います」
「じゃが、どれもこれも神聖言語や神代文字を用いておらんかった……」
「姫様はそこに拘っているようですね。確かに無詠唱で術を発動できるのであれば、無類の強さを発揮できるように見えますが、多分そこまで強い術式にはならないのではないでしょうか?」
「何故じゃ?」
「今言っていたロイが使った魔法と思わしき現象は、どれも以前からロイが使っていた身体強化法や、現象強化です。我々の魔法と類似してるのは風魔法らしき術式ですが、実はあれもロイにとっては現象強化の一つで、前から使っていました。勿論あそこまで強力なものではありませんでしたが」
「そうなのかぇ?」
「はい。恐らくは、ロイが使うあの術式は、我々の使う魔法ほど複雑な術式にはならないのではないか……と言うのが俺の推論です」
「うむ……まぁ納得出来る推論ではあるの。後は、ロイフェルト本人に直接聞いてみる他ないであろうな」
そこで一旦話を終えると、一同はその場を解散したのであった。
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