第12話 研究者は研究室にて研究に没頭する
「そそそれで、今日はななな何の研究ですか?」
お邪魔虫な立場であるはずにも拘らず、ワクワクとした感情を隠そうともしないトゥアンに少し苛つきながらも、ロイフェルトはそっと息をついて心を落ち着かせる。
「んー……折角だから、
と言って、
「……わわわわわ分かりました!」
一瞬の逡巡ののち、トゥアンはキッと顔を上げると、ガバッと制服をはだけて肌を露出する。
「どどどどどーんと来いです!」
「…………」
「あ、あああの……」
「…………」
「あ、あまりじっくり見られると、ささ流石に恥ずかしいといいい言いますでしょうか……」
「…………」
「え?! なななななんで何事もなかったかのように、じじじじ実験らしき事をはははは始めようとしていらっしゃるんですか?!」
「…………」
「ちょちょちょちょちょっと待っ……じじじ自分から、協力をももも求めておいて、放置しししししないで下さいぃぃぃ!!」
「……俺が協力を求めたのは学園の魔術師見習いであって、痴女ではない」
「ちち痴女?! へ?! だだだだって、いいい今協力しろと……」
「それで何故、服を脱ぐのか理解に苦しむ。俺には痴女の頭の中を伺い知ることは出来ないよ」
「へ? きききき協力とはじじ人体実験の被験者ってこここここ事なのでは?」
「何で、実験と聞いて人体実験と結び付けるのかは敢えて問う事はすまい。それよりも君はあれか? 君の頭の中では、俺は実験する時には必ず女性を裸にひん剥く人間なんだと認識しているのか?」
「へ? ……へ? ……あ………あ! ああああああああああああキャイィィィン!!!」
自分の勘違いようやく気付き、トゥアンは慌ててはだけていた制服を手繰り寄せ、丸見えだった胸元を隠す。
「ろろろロイフェルトさんのじじじじ実験と聞いて、ワクワク感にこここ心を占められ、きききき気が大きくなって気付いたら……何故かはだけてました……」
「そこで何故、胸を見せようとするのか理解に苦しむわー」
低めの身長や幼い顔立ちからは想像も付かないような大きさがあり、若さゆえのはち切れんばかりの張りもある、見る人が見ればよだれを垂らして見入るだろうギャップと迫力のある胸元なのだが、自分の好みとは全く真逆てある為に、ロイフェルトにとってはご褒美ではない。
「なななな何故なんでしょう……ああああたしにも分かりません……」
目尻に涙を浮かべて視線をツツーっと外して、哀愁たっぷりに呟く
そして、安易にこの
と、いう様なハプニングもあったが、取り敢えずは、研究作業の開始にこぎつける。
トゥアンを研究室から叩き出すことも考えたが、その際に掛かる労力を考えるとげんなりするのでスルーする事にしたのだ。
「君の得意魔法は?」
「あああたしは、みみ水系の魔法に適性があります。ただ、マナ量が少ないので、みみ水を生み出すことまでは出来ないです。みみ水の操作系魔法……と言えばよよよいでしょうか……」
「それなら……」
そう言いながら立ち上がると、部屋の隅にある洗面台の蛇口を捻り、コップで水を汲んでトゥアンの目の前にドンと置いた。
「この水使って魔法を見せて」
「ははハイです」
トゥアンは右手をコップに翳し、目を瞑って呼吸を整え心を鎮める。
体の中のマナを意識し、それに呼び掛けるように呪文の詠唱を開始した。
『
呪文が完成すると、コップを中心に魔方陣が浮び上がり直ぐさま消える。
すると、コップから水が溢れ出し、其のまま宙に浮いてピタリと止まった。
その水の塊に向かって指先を動かし、マナで神代文字による起動呪印を書き込んで再び詠唱を開始する。
『
すると、水塊はニョキリニョキリと動き出し、直ぐさま、水の烏へと姿を変えた。
「ででで出来ました!」
「……意外だ。絶対また何か余計な騒動が起きると思ってた」
「どとどどう言う意味ですか?! ここここれでもくくくクラスの中ではそれなりにここ高成績なんですが?!」
「それを俺に信じろと?」
ジト目を向けるロイフェルトに、トゥアンはツツーっと視線を外す。多少は自覚があったらしい。
「まぁ良い。それじゃ、この烏を武器に変化させることは出来るかい?」
「ぶぶぶ武器化はあまりととと得意ではないのですが……た、短剣くらいならば……」
「それで良いよ」
「では……」
再び指で起動呪印を刻みながら呪文を口ずさむ。
『
得意ではないとの言葉は嘘ではないらしく、烏に変化させた時に比べると少し多めに時間が掛かる。
それでもなんとか短剣の形へと変化したそれが、ポトリとトゥアンが差し出した手のひらに落ちる。
直ぐに柄を握ると、ロイフェルトに見せるように差し出した。
「烏より時間が掛かったのは何で? 魔法はイメージなんでしょ? 短剣よりも烏の方がイメージしにくいと思うんどけど……」
「あああたしが、に、苦手なのはここ硬質化です。は、刃物を作るならきき切れ味を与えなければならないのですが、あああたしにはそれが出来るほどマナの強度が無くて……」
「なるほどねー……その短剣、そこに置いて。触って確かめたい」
「あ、あたしでは、手から放すとぶぶぶ武器の形状を維持出来ません」
「そか……それじゃ持ったままで良いや」
「は、ハイ……ゥヒャイ!」
唐突に差し出していた手を短剣の柄ごと握られトゥアンは奇声を挙げるが、ロイフェルトはそれを気にすることもなく、ジロリと水で出来た短剣を観察する。
「ああああの……みみみ見やすいようにあたしがううう動かすので言っていいい頂ければ……ヒアゥ……ンン……」
握られた右手から、何かが自分の中へと入り込む感触が伝わり、初めてのその感覚に嬌声が上がる。
「…………」
「ららららめ……」
「…………」
「らめれす……ここここれいじょうされたら……ンン…………」
「…………」
「ろろろロイフェルトさん……ぁぁ……ンヒ……ららららめ…………」
「……んー…………」
「あ……ああ! らめ」
「なるほどね。あんがと。もう良いよ」
「……へ?」
「……魔法によって作られた武器の分子構造が、本来の水の分子構造と……」
「ろろロイフェルトさん?」
「……これを応用すれば…………だけで修復可能な……」
「あれ?」
「……試してみるか…………でも………………」
「…………」
「…………そうか…………こうすれば…………クソ………………………」
「…………シクシクシク…………………」
そして、気付くと夜は更け、建物の外はは闇の中。
研究室は、人間がいると学園に張り巡らされた特殊な魔法で明かりがつくのでそれが煌々と光を放っていて昼間の様に明るい。
そんな中、いつも授業は必ず出席している友人が今回に限って欠席していた事を心配し、スヴェンがロイフェルトの研究室まで足を運んでいた。
別れる際に、空腹を訴えていた事が頭の片隅に引っ掛かっていたので、念の為に焼きたてのパンを袋に入れて抱えている。
スヴェンは、研究室の扉の前に辿り着くと、トントンと扉をノックした。
「ロイフェルト、入るぞ」
そう断りを入れて扉を開いた彼の目に飛び込んできたのは………
ブーン「…………」プーン
「……クソ……むずいな…………バランスが…………」
ブーン「…………」プーン
「……あああああああ! 液体状から半結晶化状態までいけるのにその先があああああああ!」
プーン「…………」ブーン
「いや、理論的には確かな筈なんだ……足りないのはマナ操作の精度……」
「おい」
プーン「…………」ブーン
「もっと意識を深く沈めて……」
「おい! ロイフェルト!」
「ん? あ、スヴェンじゃん。どったの?」
ブーン「…………」プーン
「『どったの?』じゃねぇよ。何時経っても戻ってこねぇから、心配して来たんじゃねぇか。授業もさぼりやがって……」
「サボった訳じゃないんどけどね……うわっ、外真っ暗! もうそんな時間?!」
「もうとっくに夕飯の時間、過ぎちまったよ」
プーン「…………」ブーン
「うっかりうっかり」
「んったく……お前、研究に没頭すると、ホント周りが見えなくなるよな」
「研究者って人種にとっての職業病みたいなもんだね。人によっては『須らくそうあるべし』って言ってる人がいるとかいないとか……」
プーン「…………」ブーン
「いねーよ! それより……」
「今すぐ片付けて、寮に戻るよ。ちょっとまってて」
プーン「…………」ブーン
「いや、そうじゃなくて……」
「まぁ、このままでも良いか? スヴェン、んじゃ戻ろうか」
プーン「…………」ブーン
「いや、ちょっと待て!」
「どったの?」
「あの壁際で虫に集られてるあの女は誰だ?」
「へ?」
ブーン「…………」プーン
「………あ……」
ブーン「…………」プーン
「「…………」」
プーン「…………」ブーン
「「…………」」
ブーン「……シクシクシク……」プーン
「「…………」」
こうして、三人の間に気不味い風が吹き抜けるのだった。
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