第三話:早過ぎる集合
ゴールデンウィークも直前となった日曜日は、初夏を感じる温かな日差しが差す快晴となった。
そんな中。
黒のベレー帽にいつも通りの金髪の長いツインテール。赤と黒のボーダー柄の袖の長いシャツに裾の長いサロペットジーンズを履きこなす
「お
遅刻はしたくない諒に合わせてやってきたのは良かったものの。流石にこれでは時間を持て余すと呆れ顔をした彼女がじっと兄を見る。
「まあ、遅れるより良いだろ」
思わず苦笑する諒は、真新しいグレーのジャケットとスラックスに、白いインナーシャツを着込み、少し髪の毛をジェルで固めていた。
普段のファッションよりは締まりのあるこの格好。あまりにファッションにずぼらな兄に呆れた
普段よりすらっと見える諒の姿に、
──やっぱりお
などと、内心嬉しそうに
「……なあ。俺、変か?」
あまりにじっと見つめてくる妹の視線が妙に気になり、諒は思わず不安そうに尋ねてきた。
確かに彼女が選んだとはいえ、普段と違う装いは妙に慣れず、着心地が悪い。
だからこそ自信を持てずにいた訳だが。
その言葉で何時の間にか
「お
「あ、いや。そうじゃなくって。慣れない格好だから自信ないんだよ。お前が急にじっと見てくるし、変な所でもあったのかなって……」
困ったように頭を掻く兄に、
「ある訳ないでしょ。これでもセンスは
「ああ、悪かったよ。でも、それだったらなんで俺の事じっと見てたんだ?」
「え? あ、その。それは……」
諒の疑念を晴らす事で危機を回避したつもりが、逆に墓穴を掘った形になった彼女は、思わずしどろもどろになり思いっきり戸惑ってしまう。
流石に言えるわけがない。
大好きな兄が、普段より格好良くて
はっきりと動揺する彼女だったが、見守っていた天使が達がそんな彼女に同情したのか。
そこにちょっとした奇跡が起きた。
「おはようございます。お二人とも随分お早いのですね」
そう。
タイミングよく、そこに救世主がやってきたのだ。
「あ、真行寺先輩! おはようございます!」
ここぞとばかりに彼女は椿に勢い良く頭を下げ。
「おはよう。椿さんもかなり早いよね」
諒は少し驚いた顔をした後、ふっと微笑んだ。
そんな表情の変化に気づいたのか。
「あの……何処か、
「え!? あ、その。いや……椿さんの私服姿って、考えてみたら初めて見たからさ……」
まるで先程の自分を見るかのように、何処か不安げに上目遣いでじっと椿に見つめられた諒は、ぎくっとした後、思わず頬を掻きながら視線を泳がせた。
椿は、学校とは随分と雰囲気が違う服装で現れた。
長い髪の毛を赤く大きなリボンでポニーテールに纏め。顔には丸みを帯びた黒縁の眼鏡を掛けている。
普段学校では凛とした淑やかなお嬢様な雰囲気を漂わせているが、上にベージュのブラウス、下も同じくベージュのレースアップパンツを履いたワントーンコーデの彼女は、普段の和風感と異なる、何処か大人びた雰囲気を醸し出している。
「何か真行寺先輩。凄く、大人っぽい感じしますよね」
「そうだね。ぱっと見別人みたいだね」
「やはり、そう思われますか。ですがその位の方が、変装としては良いのです」
「変装……そっか。そりゃそうだよね」
その言葉を聞き、改めて彼は思い出す。
最近学校で身近になったとはいえ、彼女はアーティストであり芸能人。だからこそ、中々素のままという訳にはいかないのだと。
「でも、それでこれだけ着こなせるのって凄いよね? お
「うん。とても似合ってるよ」
感心しながら褒めてくれた二人に、椿は少しはにかむと、
「お二人の装いも素敵ですよ」
そう言って彼等に微笑み返した。
「しかしお早かったのですね」
「お
「遅刻するより迷惑は掛からないし良いだろ?」
彼の行動に呆れたかのような声を出す
そんな二人の
「それより椿さんは何でこんなに早く?」
突然彼にこんな質問をされた途端。
眼鏡の下の目を泳がせると、恥ずかしげに俯いてしまう。
「実は、今日が楽しみすぎて、朝早くに目が覚めてしまったのです……」
そんな椿の反応に、諒と
「真行寺先輩の気持ち分かりますよ。楽しみな時って早く明日来ないかな~って気持ちになりますもん」
「
「はい。だから恥ずかしがる必要ないですよ。ね? お
「うん。結構そういう人多いと思うし」
──俺、こんな椿さんすら知らなかったんだな……。
唐突な事ばかりだった自身の初恋を振り返ると、椿は本当に友達ですらもなく、殆ど何も知らなかった相手。
ずっと見続けてくれた萌絵の事を知らなかったように。あの時ですら相手を本当に何も知らずに過ごしてきたのかと思うと、申し訳無さで心が痛む。
ただ、今ここでその気持を出して心配は掛けられないと、そんな後悔をこっそり心の奥に仕舞った。
「ちなみに、お
ふと
「う~ん……。何となくだけど、
かなり迷った挙げ句、そう答えた。
「へ~。何でそう思うの?」
続け様の質問に、彼は視線を空に向け、考えをまとめながら話し続ける。
「なんていうか、ファッションとか凄い拘りあって、時間かけそうなイメージもあるんだけど」
「あるんだけど?」
「妹さんの世話とかしっかり済ませてから出てきそうなんだよね。なんていうか、家族想いっていうのかな。そういう所ちゃんとしてそうでさ」
そんな褒め言葉と共に笑みを浮かべ、彼は
彼女は目を丸くし唖然としたまま、首をふるふると横に振る。
「ん? どうした?」
思わず疑問の声を上げると、
「諒様。気づいておられなかったのですか?」
少し驚いた声を椿も上げる。
その言葉に、彼はふっと思い返す。
──「へ~。何でそう思うの?」
空を見ながら話していて気づかなかったが。
その声を発したのは、本当に
瞬間。
はっとして諒が思わず振り返ると。
「諒君さっすが。もう私の良い所、分かってるよね~」
そこには、麦わら帽子を被り、白いワンピースを纏った少女が、嬉しそうな笑みを浮かべ立っていた。
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