第二話:同じ雰囲気
放課後。
諒は
互いに注文を終え、ドリンクバーから飲み物を用意した二人は、席に向かい合い座っている。
「今日は急に誘っちゃってごめんね」
昼休みの雰囲気とは一転。
「いや、こっちこそ。中々言い出しせなくてごめん」
「いいのいいの。諒君きっと、私を気まずくさせちゃうんじゃ、な~んて考えてそうだし」
思わず諒が苦笑したのを見て、彼女は少しドヤ顔で笑う。
実際に図星だっただけに、彼はそれに対しては何も言い返せなかったのだが。
とはいえ、その想いと別の話は口にできる。
「そういや
「え? なんで」
彼女が少し驚いた顔をすると。
「いや。ちょっと昼の反応が普段と違ったから。
と、気恥ずかしげに頭を掻きながら諒が語る。
それを聞き、少しの間呆然と見ていた
「諒君ってやっぱり、空気読めすぎだよね~」
「そんな事ないよ。たまたま」
「ふ~ん。ま、そういう事にしておいてあげる」
少しだけ悪戯っぽく笑った彼女は、そこで表情を引き締める。
その変化に、諒も浮かべていた笑みを仕舞う。
「もしここからの話は、したくなかったり辛かったりしたら、無理しないでね」
「うん」
彼の返事を確認し、神妙な顔で
「あのね。今日
「どうしてそう思ったの?」
「ん~。本当に些細な事なんだけど。遊園地の誘いの答えが、妹ちゃんがOKだったら、俺は別に~って感じだったから」
こめかみに片方の人差し指を当て、少し考えるような仕草でそう答えた彼女に、諒は思わず舌を巻く。
「やっぱり
「そうかな?」
「うん。人への気遣いもそうだけど、観察力とかコミュニケーション能力とか本当にずば抜けててさ」
感心した顔で並べられた本音の褒め言葉の数々。
それを聞いた
「まったく~。諒君ってば。褒めても何もでないよ~」
と言いながらも満更じゃない顔に、彼も表情を緩める。
互いに少し笑みを交わした後、彼女はまた少し心配そうな顔をした。
「でもそう返したってことは、やっぱり辛い?」
「うーん……。まあ、全然辛くないって訳じゃないよ。でも、俺は誘ってもらえて嬉しかったし、もし
「許可?」
頭を掻きつつ、心配をかけまいと笑顔で語る諒の口より語られたその言葉に、思わず
「うん。
「あ~、分かる~。妹ちゃん絶対お兄ちゃん想いだもんね。良い妹持ったよね~」
「うん。そう思う」
納得する彼女に笑顔で頷いた彼は、カップを手にし一口コーヒーを飲み喉を潤す。
「まあでも、本音を椿さんに伝えて少しすっきりしたのもあるし。
「……そっか」
まるで真実を見定めんと、じっと諒の目を見つめた
* * * * *
そんな会話の後すぐ、二人の前にスパゲッティが運ばれてきた。
諒の前にはトマトスープのスープスパゲティ。
二人はそれを食べながら、会話を続ける。
「そういやさ~。諒君、本当にごめんね」
「え? 何が?」
突然の謝罪の言葉に思わず驚く彼を見ながら、フォークでスパゲッティをくるくると器用に巻き取った
「いや、初めて一緒に遊んだ日に、何も知らずに色々言っちゃってさ〜」
そう言うと、ぱくっと口にスパゲッティを放り込んだ。
初めて一緒に遊んだ日。
それを思い返し、諒がふっと優しい顔になる。
一緒にカラオケに行き、ボウリングに行ったあの日。
確かにカラオケで歌わない諒に苦言を呈し、ボウリングでマイシューズやマイボールを持ち出した彼に怪訝な顔をした
その事を口にしたのだとすぐに理解する。
「別に気にしないでよ。俺もノリが分からなかったし、大事な事もまだ話してなかった時期だし。カラオケだって、
「その言い方だと、私や妹ちゃんが悪いみたいに聞こえるけど」
そんな少し意地悪な日向の言葉にはっとした諒は、
「あ。そ、そういう訳じゃないんだ。何ていうか、俺と一緒に
最初は慌てて否定していたものの。自分の喋りが下手なせいで皆を悪者にしたのかと気落ちし、思わず弱気な声で謝ってしまう。
そんな彼らしい姿に、
「大丈夫だよ。ちゃ〜んと分かってるし、今は諒君の事分かったからこそ、あの時は私が
「そんな事ないよ。あれは俺が──」
「諒く〜ん」
納得がいかずに反論しそうになった諒だったが、続きを遮った
その視線は何処か真面目で、厳しく見えてしまったのだから。
じーっと見つめてくる彼女に何も言えずにいると。彼女は突然、太陽のような笑みを見せた。
「諒君は優し過ぎだよ。他人を責めろって訳じゃないけどさ。諒君に反省する所があるのと同じで、わたしにもそういう所があるの。もう友達なんだから、こっちの本音も聞いて。ね?」
「あ、うん……」
掛けられた声の温かさが、今までと違う
最近確かに自分にも優しく接してくれるとは思っていたが。この感じはどちらかといえば……。
──萌絵さんとか、
そんな不思議な感じを覚えていた。
自分に対して優しさを強く見せる時の、諭すような。受け止めてくれているような二人と同じに。
唖然としたまま見つめられた
「あの日、私は諒君を傷つけたと思うし、あの日から諒君は、私が苦手だろうなって分かってる。それはね、私が一番分かってるの。友達だからってすぐ克服できるものじゃないしね」
そこまで語ると、彼女は上目遣いに、少し恥ずかしげな顔で諒を見つめてきた。
今まで見せた事のない雰囲気が、またも彼の心をドキリとさせる。
「だから、その……。私ももっと諒君の気持ちを感じて、色々な諒君を知って、理解しようと思うから。だから諒君も、私を見て、知って、少しずつ受け入れて欲しいの。勿論慌てなくていいけど。ただ、折角……友達にも、なれたし……」
最後の辺りは言葉が弱々しくなり、か細くなる。
普段の
──な、何か調子狂うな……。
そんな動揺を見せながらも、同時に言葉の意味ははっきりと理解していた。
──確かに。
もう赤の他人ではない。
萌絵や椿と同じ。彼女は友達なのだ。
それをはっきりと意識したからこそ、諒は微笑む。
「うん。きっと俺もこうやって自分を責めちゃったりして、まだまだ沢山迷惑かけちゃうと思うけど。良かったら、これからも知って欲しいかな。俺も
「うん。ありがと」
彼の言葉に彼女もはにかむと、互いに何かを誤魔化すように、スパゲティをフォークに絡ませていく。
「ね? ね? ちなみに私の良い所って、どこかある?」
会話から気になったのか。普段通りの雰囲気に戻った
「友達に真っ直ぐ向き合ってくれるし、こうやって色々心配してくれるし。妹さんの為にちゃんと家に帰ってあげた優しい所とかもそうかな。あとワンピース似合うって言った時恥じらってたのは、乙女って感じで可愛かったし、素直で良かったよね」
最後は少し悪戯っぽく、冗談まじりに口にした諒は、絡めたスパゲッティをパクりと食べると、ふっと
瞬間。彼は思わず首を傾げた。
彼女は、顔を真っ赤にしたまま呆然とし。ただずっとフォークをくるくる回し続け、スパゲッティをフォークに絡め続けていた。
まるで壊れた
少しずつ、絡まったスパゲッティの量が多くなり、塊が大きくなっていく。
そろそろ大口を開けないと入らない程に巻き付いているのを見て、流石に見兼ねた諒は、申し訳なさそうに、
「えっと、
そんな声を掛けた。
瞬間。はっとして慌ててフォークを見た
「あ、ああ! これね! ちょっと『パンピーズ』であったシーンの真似して食べてみようと思って! お、驚かせてごめんね!」
と、まるで恥ずかしさ毎呑み込むかのように、大きな口を開けて、一気にスパゲッティを口に頬張った。
あまりの豪快さに諒が唖然とする中。
──りょ、諒君。私を可愛いって言った!? 言ったよね!?
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