第226話 そのための資質
オレは、リロメラたちとの話で古のものとの対処を考察していた。
爽酷清。
仮にそれが使えたとしよう、もし失敗したら、この星と生命はその瞬間消されるのは間違いない。
失敗が許されないのはもちろんだが、どうあがいても勝てる気がしないのだ。
神、神を倒す力、その方法……
ふと移譲物の中にあった剣を思い出す。
オレは移譲物置き場になっているブースに行き、“アメノムラクモ”の前に立つ。
これは神を殺すことのできる剣だったな。
だがこれを古に突き立てたとして、本当に死なせることができるのだろうか。
あのネクロノイドを本体もろとも葬り去らない限り、この星の生命は喰い尽くされる。
古のものには恐らく、いかなる外的な攻撃も通用しない。
それは今まで関わった少ない時間からもわかる。
どうすればいいのか……
いつの間にか、後ろにネフィラが立っている。
「やはりここに来るわよね。
あの時言ったこと、憶えててくれたあなたなら気づくと思ったわ」
「ネフィラさんも…… これを古のものに突き立てる手段なんて、存在しないのはわかりますよね」
「……」
彼女はしばらく何も言わなかったが、絞り出すように喋りだす。
「あなたの言う通りよ。
そのままでは、恐らく無謀な試みになるだけ」
彼女は、意を決したように言った。
「外の時間を止めて、一洸さん。
この本全部読んでみるわ、きっと手掛かりがつかめるはず。
時間がかかるの、思った以上によ」
「わかりました、ネフィラさんが納得するまでお願いします」
オレはアンナとレイラを呼び出して、事情を説明する。
時間停止の前に、彼女たちをプルートニアかゴーテナスの街のどこかに滞在してもらおうと思った。
「わたし、ここにいます……
何もできないかもしれないけど、ここにいます」
アンナの調子は、もう何を言っても曲がらない、そんな感じだ。
「あ、あの…… 私も、ここにいていいですか?」
レイラも続いた。
いいよ、君たちがいたいならいいですとも。
「アンナ、お前ぇが氷の鏃を飛ばした時によ、感じたことはなかったか?」
リロメラが唐突にアンナやレイラの間に割って入ってきた。
このタイミングは生々しい声を聞く部分で、丁度いいと感じたのだろう。
アンナは少し俯き加減で考えている。
あの時だ、この子が集中攻撃を仕掛けて、高位知性種のプラズマで制御されかかった時……
「あの…… 私、赤い渦からでてくるアレに立ち向かった時、なんていうか、とてつもない力の差を感じました……
このままやっても勝てないって、間違いなく思ったからアールに伝えたんです」
その判断は的確だった。
もしあのまま攻撃を続けていたら、精神操作をされてただ屠られるままになっていたろう。
勝てないという直感。
「でも思いました…… あの時はそうだったけど、準備さえあれば…… 装備が整ってさえいれば、一洸さんならきっと勝てるって」
アンナが、眼鏡の奥から見つめる瞳が輝いた気がした。
この子の“勝てる”は、自分の力をベースにしていない、オレや、持ちうる総合力を基に行っているのだと。
「一洸、オレも感じたぜ……
あの偉そうな神気取りの奴らもそうだったが、あともう少しなんだ。
言い換えるとよ、あの神気取りの奴や、この古の奴らと同じ土俵に立てさえすれば、オレらだって勝機はあるんだ」
同じ土俵…… 同じ……
オレは自分の肩から力が抜けていくのを感じている。
そうか、力量が拮抗してさえいればこんな懸念はなくなるのだ。
オレ自身が、この古のものと同じステージに立てる存在、それになれれば十分に戦える、その資格は生まれるということか。
オレは軽く力を抜くと、二人に言った。
「ありがとうリロメラ、アンナ……
少しだけ、超えるべき壁が見えたような気がしたよ」
再びアメノムラクモの前に立って、オレは静かに気を静めてみる。
人を切るために造られたものにはみえないそれは、まるで置物のように台座に設えられている。
神を殺すことのできる刀……
これを使うのは、使って効力を発揮できるのは、もちろん人間ではない。
少なくとも、その資質のある存在でなければ。
古のもの、神として剣をつきたてたとしたら、それは適うかもしれない。
神として……
……
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