第107話 戦闘継続の必要性
それはもはやクレーターではなく、ただ何もない原野が広がる大地だ。
セトレーギアの都市があったその場所は、量子魚雷グレード3×3の威力により、その姿を半分残したままこの世から消え去った。
遠くリロメラの放つ光の力が、淡い光の波を出しながらゆらめいている。
次元窓から状況を確認しながら、オレはミーコに連絡した。
“ミーコ、今大丈夫か?”
“おにいちゃん! そっちはどう? あたしたちね、もうほとんど片付けたよ!”
オレは肩の力がどっと落ちるのを感じた。
ということは、あの3機で量子魚雷並の戦力は充分賄えるということになる。
今回の規模は間違いなく、このセトレーギアの方が大きかった。
映像を見て判断するしかないが、それだけマナジェネレーター+量子リアクターの威力が功を奏したということだろう。
オレはカミオに連絡した。
“カミオさん、状況はどうでしょうか?”
“一洸…… 今片付けているところだ。
かなり手間取ったけど、彼女たちの攻撃が凄すぎてね、さすがのネクロノイドも、反撃する間もなく死んでいったよ”
そうなのか。
とにかく映像を見てみるしかない。
“わかりました、こちらも片付き次第、合流します”
オレはリロメラに連絡した。
“リロメラ、おつかれさま”
“おぅ一洸、もう大丈夫なのか?
もうすぐ終わるぜ、この前より楽だったな。
あの光玉よぉ、3っつ出たかと思ったら一つになって、今回の下等を一発で消し炭にしちまったぜ!
あれがありゃ、何が出てきても大丈夫だろ”
この惑星を根底から消し去らない、かろうじてギリギリの破壊力といったところか。
オレはアールに向き直った。
“アール、今回も助かった、ありがとう”
“礼にはおよばない、今回はネフィラの協力があってこその成果だ。
それにしてもあの魔法は驚異的だ、その応用を想像しただけで君たちの敵でなくて良かったと思えるほどだ”
“……それで、相談なんだが。
オレのバトラーにマナジェネレーターは装着できるものなのか?
もし魔素の供給があったとしたら、今回のようにぶっ倒れることなく戦闘継続できるんだけど”
一瞬の間があったが、アールは続けた。
“もちろん可能だ。
一洸の属性である“闇”だが、敵に対する直接攻撃という部分ではあまり適性がない。
ただ今回のような使い方を主とした場合、やはりマナジェネレーター内蔵は極めて有効だろう”
アールは再び、しばしの間を置いた。
“それでだ、問題というほどのこともないんだが……
もし連邦にこの機体を預けた場合、マナジェネレーターの情報一切が、彼らに伝わってしまうが、それは大丈夫なのか?”
オレは一瞬考えたが、これはコピーではなく、必要不可欠な改造である。
魔法使いを戦力として用いていない連邦軍にとっては無用の長物だろう、現在のところはだが。
“ひょっとしたら問題があるかもしれないけど、お願いするよ。
マナジェネレーター、装備してくれ”
“わかった”
オレはエイミーに連絡した。
“エイミーさん、大陸北部のネクロノイドは殲滅しましたよ。
連邦の人の救助が必要なら向かいますが”
エイミーは、恐らく作業中なのだろう。
しばらくして返答があった。
“一洸、おつかれさま、本当に助かったわ。
こちらのスタッフは大丈夫よ、今降下中なの”
“了解です、オレはもう一つの現場に戻ってます”
しばしの間があった後、エイミーは続けた。
“ね、一洸…… その、ミーコちゃんたちは大丈夫だったの?”
エイミーが言ったその言葉と雰囲気で、オレはあの人たちが全て見知っていることを理解した。
基本的に彼らに秘匿しなければならない理由などない。
もしあるとすれば、敵対していたネクスターナルの力を用いて、技術資産の結晶である兵器を改造・運用しているということか。
直接的な迷惑というより、便宜上の問題だろう。
それにパーツの流用や、彼らにメンテナンスの負担を負わせているわけでもなく、要請したわけでもない。
なにより、このオレがネクロノイドを地上から排除し、彼らが遺骸からのネクロニウム収集を手助けするための不可欠なツールでもある。
黙ってやったのは確かだが。
オレはエイミーに答えた。
“ええ、大丈夫だったみたいです。
その…… 見たんですか?”
カマをかけたり、様子を見て言うような小賢しい真似をしたくなかったのもあるが、オレ自身が小細工を得意としないのもあり、そのままぶつけることにした。
“ええ…… 凄いものが出来たのね、あの子たちなら上手に乗りこなせるでしょうけど”
今のコミュニケーターの感じからは、エイミーの心の内を読むことは難しかった。
忘れそうになっていたことがあった。
オレはセトレーギアの街の外れにバトラーで降り立ち、魂意鋲を打つ。
そこから見る元街があった場所は、何もない原野がただ広がっていた。
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