第105話 閾影鏡

 スクリーンから見るセトレーギアの都市は、かなりの浸食を許しており、半ば壊滅状態であった。


 火災も広がっているが、ほとんどがネクロノイドの下敷きになり、死傷者数は想像したくないレベルである。


 これ以上の侵攻を許すわけにはいかない。

 中心核付近に量子魚雷攻撃で、一気に散らした後に殲滅消去していくしかないな。



“アール、量子魚雷で中心核付近を攻撃後に、破片を掃除していく”


 オレはネクロノイドに覆われた街区と、先に広がる大地を見て思った。


 これ、一発じゃ無理だな……


 もし再生を許してしまった場合、複数発の魚雷攻撃になるかもしれない。


 その場合、この星そのものが危機にさらされる可能性がある。

 あんな超水爆レベルのものを一か所に複数発打ち込んだら、問題無しでは終わらないだろう。



“リロメラ、量子魚雷を撃った後に次元窓を開けるから、準備を頼む”


“おう、下等の掃除だろ、まかせろや”


 その前に、やはり聞いておいた方がいいだろう。


“アール…… この前のグレード3で、このネクロノイドの殲滅は可能だろうか。

今上空から見る分での予想だが、無理そうな気がする”


 これはオレの悪い癖でもあった。


 明らかに結果が出ないとわかっている場合は、出たとこ勝負で突っ込んでいけない性格だ。

 これが良い結果に結びつく場合はいいが、そうならない場合もある。


 今回は、この性格が幸いしそうな気がする。


“確かに、前回放ったグレード3では一発での完全殲滅は出来なかった。

ミーコやリロメラ、カミオたちの後処理があっての成果だ。

今回は前回と条件が違うし、ネクロノイドの規模も違うようだ”


“その、グレードを上げるというのはどうだ?”


 オレはなぜ、アールがそれを持ち出さないのか予想はしていたが、やはりそういうことなのだろう。


“グレード4以上は私も実射経験がなく、統合体でも実戦でのデータがないのだ。

つまり、複数の対艦殲滅戦以上の作戦がオールドシーズとの間でもなく、また他の実戦データもない。

威力的には、直径40,000km級の小惑星や隕石破壊レベルのものだ。

グレード3と4の威力の間は相当なものがある、惑星の地表上で放つのは……

止めた方がいい”


 大変よくわかりました、ありがとう。



 さて、そうなるとまずグレード3を撃ち放って、その後はせっせとオレとリロメラで掃除して回ることになるか。


 再生が間に合ってしまった場合、ミーコたちを呼び戻して当たるしかあるまい。



“ね、量子魚雷のグレード3が、例えば3つくらいの威力で放たれた場合、そのグレード4と比較すると、どのくらい違うものかしら?”


 ネフィラがアールに問いかけていた。


“……そうだな、もし3発同時可能であったと仮定した場合、惑星上での被害は甚大だが、グレード4の破壊力には、それでも遠く及ばないだろう”


 ネフィラは何か考えがあるのだろうか、そのまま通信は終わってしまった。



 オレはネクロノイドを見た。


 侵攻速度は変わらないが、着実に街の破壊は続いている。

 この状態で、一旦作戦を立て直してみよう、次元窓を開けて保管域に戻ると、すぐに時間停止をした。




 オレが戻ると、ネフィラはアールと何か相談しているようだった。


 リロメラは、時間の停止した外界の景色をぼんやりと眺めている。


 オレは軽く深呼吸をすると、自分の肩をマッサージしてみた。

 そういえば、しばらくそんなこともしてないな。


「一洸さん、提案があるの…… 多分成功するはずだけど。

あなたがすごく疲れることになるわ」


 ネフィラはオレにそう言って、微笑んでいる。

 この人が笑みを浮かべている時は、いつも上手くいっていた。


「お伺いします」




 オレは保管域を出ると、中心核を射程に出来る最大限距離をとった位置で空中停止した。


“アール、このあたりでいいかな?”


“念のためだ、もっと距離をとってみてくれ”


 オレはさらに化け物からの距離をとって移動した。


 ネクロノイドの広がる範囲からも外れ、その中心核は彼方に位置することとなり、スクリーンでしか確認できなくなってしまった。


“このくらいかな?”


“いいだろう、いつでも合図してくれ”


 2百メートル以上に次元窓を広げると、オレはネフィラから聞いた闇魔法“閾影鏡”を発動する。


 バトラーの手を上下に広げ、時計の針を回すようにジェスチャーを開始。


 闇魔法の見えない円がオレのバトラーを囲むように三角形の頂点より広がり、展開した。



“閾影鏡 発動! 量子魚雷グレード3発射!”



 ぼうっん、という空間の振動とともに、一つの魔法行使を三つの影から発動させる闇魔法は、しっかりと実行された。


 オレは体内魔素をほぼ全て使い果たした反動で、気を失いそうになってしまう。

 バトラーは搭乗者の異常があったとしても、機体が墜落することはない。


 だがオレは今、このマシンを制御することが出来る状態ではなかった。


 微かに開けた目で見た360度スクリーンは、ネクロノイドが光にまみれて、その全体が失われていく様子を映し出している。


 オレはコンソールを握る手に、やっとのことで力を入れると、リロメラに言った。


“……リロメラ、すまない、オレは……”


“一洸よぉ、無理すんな、お前魔素を使い果たしたんだろ、戻って寝てろよ、

今のお前のでっかいのでよ、あのクソ下等はほとんど死んじまってるぜ。

あとは俺にまかせな”


“……後を頼む”


 オレが喋れたのはそこまでだ。




 オレは意識を失う前にオートドライブで保管域に戻り、状態賦活に任せて身体を休めた。

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