第102話 ラウンドバトラー改
保管域に入った途端、エイミーから連絡が入った。
「一洸…… 救援要請よ、助けてほしいの」
惑星北部の大陸、セトレーギア連邦領内の中核都市にネクロノイドが出現し、たまたま付近を調査活動をしていた連邦の人間が襲撃対象となったようだ。
ラウンドバトラー一機の戦力では対抗しきれず、あまりの力の差に圧されて、街の防御まで手が回らないらしい。
“わかりました、こちらからも現地に向かいます。
ただ初めていく場所ですので転移することができません、バトラーの飛行速度で向かいます”
“了解したわ、なるべく早くお願い。
無理をいってごめんなさい”
大同団結の連合発足直後、その成果を試そうとするかのように、異形の存在ネクロノイドが出現。
まるで、仕組まれているかのようだな。
オレは急ぎバトラーで向かう準備をするが、その時カミオから連絡が入った。
“一洸、フーガにネクロノイドが出現した、あの森の近くだ。
今私は街中にいるが、保安部隊や騎士団が対応に当たっている。
住民の避難が始まっているが、正直厳しい……
ぼくはこのまま現場に向かう”
同時2か所出現の事態、しかも相当の距離がある。
まず時間停止だ、おれはすぐに外界の時間を停止し、いつものように深呼吸をした。
◇ ◇ ◇
セトレーギア連邦、人間と魔族、亜人が経済活動で結びつき共存する数少ない共和制国家。
その中央部にある中核都市オムスに、全てを破壊する悪魔は現れた。
逃げ惑う人々、流れ出る溶岩のような赤褐色の粘体をした暴力体は、街を圧し潰し、人々を飲み込み始めた。
この町で総菜屋を営むウサギ系獣人のラビート、リリアと娘のリリス。
仲も良く美しい親子は、街でも評判の働き者で、日々人で賑わう市場の花でもあった。
その市場は、突然現れた化け物で圧し潰され、逃げ遅れた人々はただ潰され、飲み込まれていった。
リリアはリリスを抱きしめながら、市場の地下倉庫へ隠れている。
通風孔から見る市場の様子は地獄そのもので、なぎ倒された建物から火の手が上がり、人間の潰された死体が点在。
なにかがおかしい。
残虐な現実を見ようとするリリスの目を覆うリリアであったが、リリスは呟いた。
「お母さん…… なんで魔族だけいないの?
隣のおばさんたちもみんな飲まれちゃったよ、倒れてるの人間だけしかいないよね」
リリスは、惨状を覗き見たリリアの言葉をただ受け入れるしかなかった。
飲み込まれるのは魔族? 人間はただ殺されるだけなの……
化け物であるネクロノイドが圧し潰した後に残ったものは、瓦礫の人間の圧殺された死体。
魔族のそれは、完全に飲み込まれてしまったため、死体は残らなかった。
圧し潰されるか、飲み込まれるか……
どちらにしろ、殺されるという事実に変わりはない。
様々な文化、人種の花咲くセトレーギアの都市オムスは、その歴史を終えようとしていた。
◇ ◇ ◇
優先順位としては、もちろん協約を結んだゴーテナス帝国のフーガだろう。
オレは命に優先順位をつけられるほど偉くもなければ、優れてもいないし、冷徹にトリアージできるほど、人間が出来ているわけでもない。
ミーコ、アンナ、レイラ、そしてリロメラまでスタンバイしている。
どうする…… 言葉にはださないが、皆オレの言葉を待っている。
その時だった。
“一洸…… まだテストしていないのだが、前回話したマナジェネレーター内蔵機、実は試作機が出来ている。
ミーコ、アンナ、レイラ用の3機だ。
リロメラは、神力へのエネルギー変換問題が解決していないので、まだだが。
作動検証も兼ねて、どうだ?”
ミーコが飛び上がらんばかりの表情をしているが、必死に抑えている。
大人になったなミーコ。
「おにいちゃん、あたしやるよ」
「一洸さん、私もやりたいです…… 危険なのはわかっています」
「……あ、あの、私も、やれます」
そうなるだろうな、シュミレーターであれだけ暴れられれば、やりたいでしょうよ。
「みんな…… 頼めるかな」
三人娘は、目をそらさずに頷いた。
「俺はよぉ、一洸の方にいくぜ。
2、3くらいでちょうどいいだろうしな」
「リロメラ、頼む」
オレたちは二手に分かれて対応することにした。
趣味に走ったなアール。
三人それぞれの戦闘特性を加味した、魔法使い専用ラウンドバトラー改は、アールの格納庫から次々にお披露目されていく。
そのバトラー改は、説明を受けなくても誰の搭乗機なのかはすぐにわかった。
「これ、私の提案もしっかり生きてるのよ」
ネフィラは、自分の案が取り入れられたこの機体が暴れるのを心待ちにしているようだ。
ミーコの青い機体はヒートアームが装着され、腕の淵の射出口は、恐らく魔力を行使する際のものだろう。
アンナの黒い機体はアーム部分が少し膨らんでいて、恐らく可変すると思われる。
レイラの機体は白く、腕の部分はすっきりしているが、背中にソードを装着していた。
“すごいよアール、ありがとう!”
“アール…… これ、腕のところ形が変わるんだよね? なんとなくわかる”
“……あ、あの、すごくいいですこれ、嬉しいです”
彼女たちのバトラー改初陣が見れないのは残念極まりないが、仕方ないな。
オレは先にゴーテナスに転移し、次元窓展開後、三人のバトラーを排出した。
三人は勢いよく、量子の光りを吐きながら飛び出していく。
ここと大陸北部の二元的な戦闘になる。
オレは覚悟を決め、セトレーギアに向かって飛んだ。
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