第50話

 なんか日夏、歩いている間ずっと無言だな……。


 俯いている日夏はどこか決意したような姿で。

 なぜだか、俺も緊張してしまった。


 それにしてもどこに行くのだろうか。

 テレビジョン塔、略してテレ塔に何かあったっけ?


 そして、なぜか互いに無言のまま、大通公園の、テレ塔の前に到着した。



「それで……どうするんだ?」


 夕方というには少し遅い頃だ。

 空は暗闇に染まりかけている。


「もうちょっとだから、少し待って?」


 時計を気にしながら、そう言う。時間でわかる仕組み……?


 あ! そこで俺は気付いた。


 と、同時にその現象は起こった。


 無機質な鉄の色だったテレビジョン塔が、青く光輝く。

 ライトアップされたのだ。


「おぉ……」


 俺はその光景に少し感動する。

 横では日夏もライトアップに目を奪われている。


「すごいね」


 無意識なのか、俺に聞こえるか、聞こえないかの声でポツリと呟く。


「あぁ。綺麗だな……」


 俺はそれに答える。

 すると、日夏が決意に満ちた顔で、俺の方を向いた。

 唇を固く結んでいて、端から見ても緊張しているのは容易にわかる。


「は、話があるの」


 俺はそんな日夏に応えるために、しっかり日夏の方を向き、しっかり見つめる。


「なんだ?」


 俺にはその話とやらが、皆目検討もつかないが真面目な話だとわかる。

 そのために、日夏の言葉を聞き逃さぬよう、耳に集中する。


「わ、私と────」


 日夏が話そうとした時だった。

 俺の携帯電話がピピピと音を鳴らした。


 くそ、こういう時は切っとくのがマナーじゃないか。


 ふと、着信先を見ると近くの病院とある。

 さすがに病院からというのは出なければいけない。


「ごめん、日夏。病院からだ。出ていいか?」


 もちろん、了承を取る。


 すると日夏は決意を邪魔されて、放心状態だったが、辛うじて残っていた意識で、頷く。


「もしもし──」


 俺が電話に出ると、聞き慣れた声が聞こえた。


「もしもし!? 若ですか!?」


 電話に出た相手はヒョロガリのおっさん、ヤスだった。


「なんだ、お前か。今重要な時なんだ。くだらない用事なら切る──」


 俺が切ろうとすると、切羽詰まった声で、言葉を重ねてきた。


「ぼ、ボスが倒れたんです!」


「は、はぁ!?」


 ボスを指しているのは、もちろん当主、天笠英隆。ジジイである。

 その言葉に、俺は衝撃を覚える。

 

「どこだ!」


「ちょうど電話してるとこです!」


 なにやら言葉がおかしいが、それだけ焦っているのだろう。

 かくいう俺も焦ってる。


 電話してるところ、ということはかかってきた着信先のところか……!

 俺のやりとりを不安そうに見つめている日夏。

 正気には戻ったらしい。

 俺は急いで日夏に事情を伝える。


「日夏……! ごめん、俺のおじいちゃんが倒れた!」


「え!? 嘘!?」


 ジジイをおじいちゃんというのは癪だが、そうも言ってられない状況だ。

 おじいちゃんと呼ばないと通じないからな。


「悪い。すぐに向かってもいいか?」


「うん、もちろん。すぐに行ってあげて!」


 日夏はそう言ってくれたが、どこか影を落としたような表情だった。


 俺はそんな様子に気付きながらも、踵を返し、病院へ向かう。


 くそ……! 何があったんだよ……!


 性格は最低でも、お世話にはなった。

 それに血が繋がっている、まぎれもなく祖父なのだ。


 無事でいてくれよ……!



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 少し、連載ペース落ちます。

 腰を打ち付けて、痛いのが理由です。


 

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