第30話

 コメントなどで、経験談ですか? と聞かれることがあるのですが……

 どこぞの世界線で怖いお兄さん(比喩)と知り合うのでしょうか……


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「見え見えですよ」


 紛れもなくこの人は嘘を言っている。そう確信している俺。


「どういうことかしら」


 白海母の言葉は少し掠れている。

 答え合わせといきましょうか。


「まず、あなたは借金を擦り付けてない。そうですね?」


「っ! ……なんのこと? さっき言った通りのことよ」


 残念だが、白海母の借金についての調べは終わっている。

 『天笠』から借りたお金だ。俺が知らないわけがない。


 実態は結局、ヤスとヒデのせいなのだ。

 白海母が逃げる直前、彼女は自分一人に借金を負わせる契約をヤスにしたそうだ。


 だが、その契約書をヤスは失くし、自分の失態を誤魔化すため、白海に借金の責任を与えた。

 それが真実だ。


 ……ヤス、あいつクソだな。

 帰ったら地獄を与えよう。


「俺は天笠の関係者です」


「え……」 

 

 驚きの表情を浮かべる。

 彼女にとってもこれは予想外だったのだろう。


「そう…………何もかもお見通しってわけね……。でも他のことは本当よ」


「捨てた、と?」


「そうよ」


「娘と思ってない、と?」


「そうよ」


 俺の問いに肯定し続ける。

 

 ……じゃあどうして。


 俺はそこで決定的な証拠に気付かせる。

 詰め寄り、確かな一歩を踏み出す。


「じゃあなんで! あなたは泣いてるんですか!」


 そう、彼女は泣いていた。

 顔を上げた彼女はつーっと流れる涙に気付かぬままだった。


「え……私……泣いてる…………?」


 白海母は目に手を当てると、そこで初めて自分の流していた雫に気が付いた様子だった。


「私っ! 本当にあの子のことなんて!」


 流れるものを止めようと必死に服の裾で拭うも、止めどなく溢れる涙は止まることをしらない。


「その流した涙が……! あなたの娘さんへの想いなんじゃないんですか!?」


 嘘を付いていても、いくら拒絶をしても。

 彼女の心はウソを付くことはできなかった。

 そんな想いが体をも蝕み、結果涙が出てしまった。


「っっ!」


 俺の言葉にいっそう涙を溢れさす。

 

「聞かせてくれませんか? どうして嘘を付いたのか」


 最初の質問を再度問い掛ける。


「……わかったわ」


 涙に声を歪ませながらも、言葉を紡ぐ。

 どうして拒絶をしたのかを。


「私は……馬鹿なのよ。全てを失った。何もかも自分のせいで」


 白海母は懺悔するようにポツポツと話した。


「ギャンブルは昔から好きで、何度も花に迷惑を掛けた。でも……中毒だった私は止められなかった……! それでも変わらず愛してくれる花が一層可哀想に思えたの……このままだと、私のせいで全てが台無しになる。そう思ったから、私の妹に事情を話して引き取ってもらえるよう交渉したの。

 だいぶ、反対もされたし、怒られたけどね。借金が花のところに行っていたのは予想外だったけれど……」


「そこまで愛情を持っていながら、なんで白海に言わないのです?」


 俺はそう聞いた。

 もちろん、理由はわかっている。

 でも、俺はあえて

 

「愛情を持っている、からこそね。花は優しいからきっと私に付いてきてしまうと思うの。そんなあの子を私という足枷で繋ぎたくない。それに……どうせ色々と調べたのでしょう?」


 目線で聞いてくる。俺はそれに無言で頷く。


「ならわかってると思うけど、キャバクラの仕事は好きだし、ギャンブル癖は治らない。男に貢がせて優越感に浸っているのも事実。そんな私が今さらあの子と会う資格なんてないのよ……」 

 

 沈痛な面持ちでそう言う。


 そして、俺は最後にこう問う。


「あなたは娘さんを愛してますか」


「もちろんよ」


 さっきとは違う回答。

 俺はそれに満足し、ポケットからを出し、画面の向こう側にいる存在にむかって声を出す。


「だそうだぞ。白海」


 それに白海母は驚きに目を丸くする。

 事情を察したのか、怒りの形相だ。


 もちろん、理由はある。


 結局───


「───言葉にしないと伝わらないですよね」


 そのタイミングで、目を腫らした白海がやってきた。

 


 


 

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