第12話

 ちゃんと白海出てきますよ!……後で!


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 女の闇? (春風限定かも)を見てしまった 俺は恐れおののきながら案内に従い歩く。


 閑静な住宅街を慣れた様子で歩く春風。

 そこで俺はふと違和感に気が付く。


 ……あれ? 俺の家の近くじゃね? と。

 自分で言うのもなんだが、俺は所謂、高級住宅地に家を構えている。家自体は普通なのだが、防犯のために両親が土地だけは高いとこにしよう、と言い決めたのだ。


 ということは春風はまあまあお金持ちと言えるのではないだろうか。


 そんなことを考えていると、春風は俺の家を通りすぎて歩く。まだ先はある、といった様子に少しホッとする。


 もし、俺の家の隣とか、ありきたりなラブコメの設定だったらさすがの俺もビビる。


 俺の家から10分程歩いたタワーマンションの目の前で春風は止まった。なかなかの高さを誇る立派なタワマンだ。


「ここが私の家だよ~」


「へぇ、良い場所だな」


 春風の家の場所ならば、近くの駅まで10分やそこらだろう。


「狭山くんってここから家近い?」


 と、唐突に聞いてくる。


「なんでわかったんだ!?」


 やはり! 女子は心が読めるのか……と一層女子に対する恐怖を高めていると、春風は少し大げさにハァっとため息を吐いた。


「あのねぇ、高級住宅地のタワマンに驚かないし、良い場所って言うからには地理を把握してるってことでしょ~? それ聞いたら家が近いって予想くらい立てられるよ~?」


「うっ……おっしゃる通りです……」


 すごいヒント出してたんだな、俺。だが、そのヒントだけでわかる春風もすごいと思うのだが。


「よし! じゃあ入るよ」


「お、お邪魔します」


 俺の緊張した様子を見て笑う春風。


「ふふっ、まだエントランスだよ」


「そ、そうだな」


「緊張しすぎだって」


 にこやかに笑い緊張をほぐそうとしてくれる。春風も一応、家に男子呼ぶわけだし緊張とかしてないのかな? と一瞬考えたのだが、あの様子を見る限りありえないだろうと、その考えを捨てる。


 再び春風の案内に従う。

 春風はエレベーターの前にある扉を、近くの機械にカードを差し込み開ける。


「おぉ……セレブっぽい」


「ん? どうしたの?」


「い、いや何でもない」


 生まれてこの方一軒家の俺は、こういうシステムはドラマや漫画でしか見たことないため少し感動する。

 その様子を不審がられたが仕方ない。生まれが特殊でも根っこは庶民なのだ。


 そのままエレベーターに乗る俺たち。

 春風が迷いのない手つきで8階のボタンを押す。ゴゴン、と少し音が鳴り、動き出す。そして、すぐにピンポーン、と音が鳴る。その一連の動作に、おぉ……、となぜか声が漏れる。

 視線を感じ、振り返ると春風がニヤニヤしてこっちを見ていた。


「な、なんだよ」


「なんだか一々感動してるのが面白くてね」


 み、見られてたのか……。少し恥ずかしくなる、俺。

 それを誤魔化すようにオホン! と咳払いをし、春風の案内の先を促す。


 そして、やっと家の前に到着した。


「お、お邪魔します」


 結局緊張してさっきと同じようになる俺。し、し、仕方ないだろう……。

 女子の家だぞ? ってなんか変態チックだな俺。


 ええい! 割りきれ! 俺は何しにここに来た! そう! 勉強を教えるためだ! それ意外に何もない!


「ふぅ……」


 自分の中での戦いが終わった俺は、幾ばくかの体力と引き換えに、平静を得るのだった……なんだこれ。


「はい、お茶」


 ちょうどそのタイミングで春風がお茶と、お菓子を用意してくれた。


「おぉ、ありがとう」


「あれ? 何か緊張収まってない?」


「ちょっと、な……己との戦いに決着が着いたのさ」


 遠い目をする。

 言葉のチョイスが中二病のような気もするけど、そう思ったら負けだから気にしない。


「? ……まあ緊張が収まったならいいや」


 不思議そうな顔をする。

 悪いな春風。

 これは俺にしかわからないのさ。


「じゃあまず聞きたいことあるんだよね」


 と、春風は切り出した。

 まだ勉強道具も出してないのに熱心なことだな、と思いその気持ちに報うためにも、ドンと胸を張り自信たっぷりに


「なんだ、何でも聞いてくれていいぞ!」


 と言った。

 プラス余裕を見せるためにお茶を含む。俺、ちょっとカッコいいかも……! って思ったのは内緒だ。


「じゃあ……白海さんと付き合ってるの?」


「ッ!? んぐっ」


 その余裕は長く持たず。見事に台無しである。

 お茶を吹き出しそうになるのをなんとか堪えると、変な音が出る。

 

「ゲホッ! ゲホッ」


 急いで飲み込むと、今度は気管に入りむせた。踏んだり蹴ったりというやつだな。

 ……情けない。


「え、大丈夫?」


 心配そうに顔を覗き込んでくる。近い近い。


「大丈夫、大丈夫」


「そう? ってその反応は本当に付き合ってるの?」


 俺の見間違いでなければ、春風が不安な表情をしているのを俺は見た。あ、と俺は気が付いた。


 ……そうか! もし白海と俺が付き合ってたら浮気みたいになって亀裂が入るのを心配しているのか……! なんて優しいんだ……。 

 尊敬した目で、俺は春風を見た。


「いや、まさか。少し用事があったんだよ」


「あ、やっぱりそうだったんだね」


 やっぱりってなんだ……

 春風も他のクラスメートみたいに思ってたというわけなのか……ぐすん。


「ふぅ……良かった……付き合ってるわけじゃなかったの」


 俺がしばし悲しんでいると、春風がブツブツと呟いていた。

 聞こえなかったので聞き直そうと思ったのだが、なんだか億劫なので聞かないことにした。


 

 そこからは特に特筆することのない出来事になった。

 春風は基礎、応用もできているため、俺ができることといえばわからない問題の解説や、解き方の工夫などを教えるだけだ。



 やはり筋は良いのかメキメキと成長している。この調子なら俺はすぐにお役御免かと思ったのだが、春風は新しいことを習う時にわからなくなるから教えて欲しいと言う。


 特に断る理由のない俺はすぐにOKをした。


「ん、もう6時か、そろそろ帰るわ」


「わっ、もうこんな時間か……狭山くんに教わってたらあっという間に時間過ぎちゃうなぁ」


 6時を過ぎたため、解散しようとする俺たち。


 春風はマンションの入り口まで見送りに来てくれた。


「今日はありがとね。すっごい助かったよ。狭山くんって教えるの上手なんだね!」


「そう言ってくれたら嬉しいよ。俺も教えるの楽しかったし」


 そういうやり取りをしたあと、なぜか顔を俯いている。


「やっぱり……お礼しなきゃダメだよね……よし!」


 小さい声でブツブツ何かを言っている春風。

 聞き取ろうとするため、俺が近付いた時、春風がこっちに勢いよく近付いてきて、


 チュッと俺の頬に温かい感触を残していった。


「こ、これお礼だから! じゃあね!」


 顔を真っ赤にして、家の方へ戻った春風。俺はそれを呆然と見送る。


 春風の顔も赤かったけども、俺も負けず劣らず真っ赤だったと思う。



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 次回は春風Sideになります!

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