第10話

 その後の授業を気合いで乗り切り、放課後となった。

 俺は絶対に授業で寝ないタイプなのだ。なぜなら内申点が引かれるからである!

 寝てても家で充分に勉強するため、どうでもいいのだが推薦狙いの人は内申点が重要だ。

 ま、俺は推薦狙いじゃないから元より関係のない話だが。どこでも入れるからな……おっと自慢じゃない。


 俺は教科書類をカバンに入れるなどの帰り支度をした。そういえば春風の姿が見えないことに気が付いた。

 一緒に帰ろうと言っていたが当の春風がいない。

 ……もしかしたら忘れて帰っちゃったのかな?


 と思っていたが、俺が最後の教科書をバッグに入れたタイミングで声をかけてくれた。


「ご、ごめん! 連絡先交換したと思ってて油断してた! 一緒に帰ろ!」


 と、まあまあ通る声で、しかもまだ人が残っている教室で言ってきたのだ。


「あ」


 察し。

 教室はざわざわとした空気に包まれた。しかもざわざわ音がかなり大きく聴こえる。

 カイジかよ。



「あの大天使様と一緒に帰る、だと?」


 と、最近若ハゲに悩んでいるクラスメートAが。


「許せぬ、許せぬぞぉ!」


 と、暴れん坊将軍にはまり、ハリボテの馬を自作したクラスメートBが。


「おい、だが待てよ? 相手は狭山だぞ?」


 と、やけに陰キャに恨みを持つクラスメートCが。


「でも白海さんとも一緒にいなかったか?」


 何の特徴もないクラスメートDが。


「ってことは……なんだ……また用事か」


 と、昨日隣のクラスの人と喧嘩して骨折したクラスメートEが。


「「やっぱりね」」


 と、全員が決め付けてきたのだった。


 解せぬ。


 いや、その前にクラスメートの情報の密がすごいな。


 俺はため息を吐いた。慣れているとはいえ、そこまで決め付けるか? とは思う。


 隣では春風がクラスメートのやり取りを見ておろおろしている。


「な、なんかごめんね。私のせいで……」


 申し訳なさそうに謝ってきた。

 春風は悪くないが自分自身が原因の一端だ、とでも思ったのだろうか。手を右往左往して慌てている。


「いや、別に春風は悪くないよ。とりあえず移動しようぜ」


 これ以上誤解というか、勘違いが広がらないために、手を教室の外に示し移動を提案する。


「う、うん」


 罰が悪そうな顔をしながら、頷き移動をした。


 外へ出るためため3階から1階まで降り、昇降口で靴を履き替え外に出る。その間春風は無言だった。まだ気にしているのだろうか。


 あまりにも申し訳なさそうな顔をしているので、フォローをする。


「そんなに気にすることでもないぞ」


「いや、でも」


「俺は慣れてるし、春風が可愛くて人気があるからこその嫉妬だと思うしな」


 苦笑しつつ答える。


「かわっ……!?」


 なぜかそこで赤くなる春風。

 いやいや、


「え、言われ慣れてるだろ?」


 だから言ったのだが、それに事実だし。


 ……まさかセクハラになる!?

 お巡りさん待ったなしはやめてくれよ……

と内心焦る俺。しかし、危惧した内容とは別の言葉が帰ってきた。


「うん……言われるは言われるんだけど、軽薄そうに言ってくるしその時絶対に私の胸とか……太ももばっかり見てくるんだ」


 それを聞いて俺はなるほどな、と思った。確かに春風ならその経験の方が多そうだ。

 しっかし頭おかしいのではないか? 普通、人と話す時は目を見て話すのが基本のはずだ。

 それを胸とか太ももを見るとか……とんだ下種だな……ドスがあれば切り落として、指詰めてやるのに。


 はっ! 思考がブラック&893に陥ってた……

 今時ドスで指詰めとかないからな……まあやりそうなやつに心当たりが無いわけでもないが。


 せめて生爪剥がしだな!


 と謎の結論に至った。根っこは裏社会のようだ。


 胸や太ももを見てくる、と言った時の春風は顔に嫌悪がにじみ出ていた。

 不誠実にもほどがあるからな。嫌な気持ちもするだろう。


「だから……」


「ん?」


 そこで言葉を切り、俺を見上げる。


「誠実に、本心で可愛いって言ってくれたのは初めて。だから……嬉しい……」


 ちょっと照れたように言う春風。

 髪をにじにじして顔を赤くする姿は、確かに可愛かった。

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