雷雲がすべてを覆いつくす時

@nihokun

第1話 プロローグ

 少女が登校の準備をしていた。

通学鞄に筆箱や教科書を詰め込んでいると、不安げな表情をした少女の母が、彼女に話しかける。


「もう具合は大丈夫なの?無理して学校行かなくてもいいんじゃない?」


「もう大丈夫だって、お医者さんもいってたじゃん。だいたい、夏休みの間ずっと、友達に会えなかったんだから。そっちのほうがおかしくなりそう」


「ならいいけど、辛かったら言いなさいよ」


「はーい」


 少女は適当に返事をして、手に持ったスマートフォンに視線を向けた。

 

 母親は彼女の意志を尊重しようと思ったが、どうしても不安は消えないようで、少しばかりそわそわしていた。気を紛らわすために、テレビの電源をつけると、ちょうど、ニュースをやっていた。


 警察署を背に、若いレポーターがニュースを読み上げる。


「殺人事件に関与したとして、金糸会系暴力団の構成員数名と、その準構成員として数十名を逮捕したと発表しました」


 場面が切り替わり、警察が暴力団事務所に強行突入している映像をバックに、ナレーションが事件の経緯を伝える。


「捜査関係者によりますと、金糸会系暴力団の構成員が暴行を加えられて警察に放置される事件が多発。


そのうちの一人が、先日の大学での殺害関与を仄めかしたため、警察は暴力団事務所を家宅捜査しました。


また捜査の結果、過去の殺人事件に使われたと思われる武器、拳銃数丁と刃物を発見。


構成員数名と、事件に関わったとして準構成員数十名を逮捕しました」


 映像が終わり中年のコメンテーターの二人が意見を交わし合う。


「組織犯罪に詳しい椿さんはこの件についていかが思われますか?」


「警察によると暴行を与えられた暴力団員は全員感電による軽いやけどを負っていたそうですよ、これはあの手口と一致します」


「例の稲妻男ですか?」


「そうだと思われますね」


「だとしたら、これの目的は何なのでしょうか、私は市を守るためにやっているのだと思うのですが」


「そんなわけありません。彼がやっているのはただの暴力行為です。きっと敵対する組織の一味でしょう。そうでなくてもそれに近しいやつらかと。まあどっちにしろそんなに変わりません」


「違いますよ、彼はいままで私たち庶民に害を与えたことはありませんから。私が思うに彼はヒーローみたいなものですよ」


「ヒーローだなんて、バカバカしい。そりゃあ、偶然、被害が出てないだけです、奴は私たちを守ろうなんてこれっぽちも思っちゃいないでしょうよ」


「いや、そうは思いません、わたしは彼は悪人ではないと信じていますよ」


「笹川さんね、あなたはなんでそんなこと信じられるんです?」


「こんな物騒な時代ですからね、そう信じないとやっていけないでしょう」

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