第12話 人形
人形
「皆、この橋を渡って、川の向こう側を歩くんだ。魔物どもは川に水は飲みに来るが、川は基本渡らないな。だからこっち側は安全だ」
私たちは橋を渡りつつ、シューの説明を聞いていた。けど、
「何故川は渡らないんだろう?」
やっぱり疑問だよ。あの魔物らだとここは渡れそう。それに、飛べる魔物もいたはず。
「このワイバーンの雛が例外だな。森から出ると、魔物達は弱体化するんだ。そして、川にも魔物がいる。つまり、川を渡れない。川から飛んで出てきて、上空の魔物を食べる魔物もいるからね」
「きゅい?」
「成程、弱体化するから、飛べる魔物も出てこないんだ」
だからさっき、よほどのことがない限り、魔物は森から出てこないって言ったのかぁ。
「ホーネット、鬼の話を聞かせてくれ。君は夢の中で鬼になっていたのは聞いていて判った。だがどういう状況だったのかまでは、まるで分らんからな」
「あ、それ私も聞きたいな」
うーん何処から話したものかな? ってなんか今までいなかった人の声が聞こえたような、その声の方に振り向くと、
「おはよー、アミちゃん。昨日は大変だったみたいだね」
何故か珠樹がいた。
「あ、珠樹さん! こんにちは、京も元気そうで何よりです!」
なんか木下がテンション上がっていて少しイラっとする。なんか私より、敬ってない?
「おはよう球樹。ここで何しているんだ?」
「んー? 昨日ここ一帯で地面が揺れたって聞いて、調べに来たんだよ。その地鳴りは、山の方に向かって行ったらしくてね。後、ここの先の山で新種の魔物を見たって聞いてね。まるで鬼みたいだって、神奈ちゃんが言ってたけどね」
それじゃあ、珠樹も、鬼について聞きに来たわけだね。
「じゃあ、話すね、私は夢の中で、私に憑りついている悪魔と会話したんだ。それで起きたら、鬼の体になっていて、悲鳴が聞こえたからいつの間にか出来ていた壁を迂回して、見に行ったんだけど」
「ああ、その壁は、乃理の能力だな。簡単に言うとあいつは壁の製作が出来るんだ」
「じゃあ、乃理はみんなを守るために防壁を張ってくれていたんだね。で、そこには大量のコカトリスがいて、乃理と百地が死にかけていたんだよ」
「おそらく死んでたんだろう。復活で何とか生き返ったのだろうな」
「成程、そして、私はコカトリスを倒して、何とか助けたんだけど、乃理に怖がられ、百地に誤解されちゃって、森を抜けて、山に逃げ延びたんだ」
「成程。じゃあ、地震は何だろう?」
「解らないな」
皆も考えているみたいだけど、仮説すら出てこない。うーん地震かぁ。でもこうやって話してみると、結構不思議なことに巻き込まれていない? てか悪魔は怪しすぎるよね。
そんなことを考えていると、もう山に着いた。さて、鬼が出るか、夢と出るか。山を登り、山頂にある岩を見つける。
「あそこで寝た覚えが有るんだけど、いないね」
「けど警戒するに越したことはない。珠樹さんは俺の後ろに」
「いや、あんた珠樹より弱いじゃない。鬼が出てきたら戦えるのか?」
「カッコつけさせてくれよ! 俺だってやるときはやるんだぜ」
「はいはい」
「って、二人とも、もう珠樹さん岩を調べているよ」
何か持ち上げようとしているようだ。けど上がらない。そんな感じだった。
「どうしたの珠樹。何かあったのかな?」
「ごめんね、アミちゃん、勝手に先行っちゃって。この場所が少し気になっちゃって、ここでアミちゃんが鬼に成っていた時に寝たんだよね?」
と、両手で何かを持ち上げた。それは鬼の人形だった。けどその鬼はあの時鏡で見た自分の顔に似ている。
「うん、そうだけど、って重! 私これ持てないよ!」
めっちゃ重いよ、この人形。珠樹の手の上から離れそうにない。
「だよねー。私も魔力を全開で筋力強化に使って持ち上げているからね。それでも、もう腕が限界。紀光研究所に送っていい?」
「うん、いいよ。あんまり近くに置きたくないし」
「ありがとう、じゃあ送っておくね」
人形を地面に置くと、袖から紙を出して、それを広げる。その上に、
「よいしょ! 本当に重いねこの人形。何トンあるんだろう?」
「トンて、それだと珠樹さん持てないよね?」
「ええっと、私筋力強化で、4トンまでなら持てるんだけど、ってことは4トンかな? でも全開で持ち上げたこと無かったし、5トンはありそうかな?」
手がプルプルしてるよ。足も。そして、紙の上に置いた。
「ええっと、これを押して、転送先は、機工研究所っと」
何か宙でぴっぴっぴと押している仕草をしている。その直後、人形が消えた。
「今ので紀光研究所に送ったのかな? でもどうなっているんだろう」
「あ、ええっと、これが神奈ちゃんの能力なんだ。まあそれは置いといて。もう帰ろうかと思っているんだけどどうする? ってさっきから気になっているんだけど、その可愛いワイバーン何?」
「ええっと、さっき森に入ったら、懐かれて」
「あそっか、調教の能力持ってたもんね。じゃあこの子が最初の使い魔だね」
「うん、そうだね」
「きゅい!」
「それで、ホーネットはどうやってその雛を使い魔にしたんだ? 懐かれただけなのか? それとも何か手段があったのか? どんな魔物でも使い魔に出来るなら、あの襲ってきたワイバーンも仲間に引き込めたんじゃないのか?」
「あ、そうだよね。じゃあ調べに行く?」
「と言うと、珠樹さんいい調べる方法があるのか?」
「冴えた方法ではないけど、実践あるのみかなっと思っているんだけど、ちょうどいま12時だし、お昼にした後森に入って、今日の訓練替わりに、魔物を倒して経験積むのと、どうやったら魔物が仲間になるか探るのが、いいかなって思うんだ。どうかな?」
成程実践かぁ。強くなってちゃんと皆を率いるためにも……ん? 私はみんなを率いたいんだっけ? いや違う。私はお父さんとお母さんを助けたかったんだ。けど、帰る事は出来なくて、それなら生き抜く力だけでいいんじゃないかな? 戦おうとは思わないし、戦いたいとも思わないから、別にここで鍛える必要ないんじゃないかな。ならここはいっそ、
「あのー、私確認しないでいいかな」
「あ、そう?」
珠樹は別に気にしない風だけど、他の二人は驚いた顔をしている。
「何故だ? アミ殿。珠樹さんのお誘いだぞ?」
「ああ、調べて、強くなっておくのも統率者の仕事だぞ」
「私は統率者になりたくてなったんじゃ無いからね。それに、戦う意思もないから別にいいかなって」
「そうか……ホーネット。だが、望んで此処にやって来た奴ばかりではないんだ。あたしだってそうだ。本当は助けたい人がいる。それだからこそ、あたしはここで修行しているんだ」
「でも、元居た世界に容易に帰れない。それは分かっているんだよ。だからもういいんだ」
「だが!」
その言葉にかぶせて、木下が、
「シュー、本人がそう言っているならいいんじゃないか? そうなると俺が頑張らなければだが」
とかぶせた。どういう意思があるのか解らない。けど、これで私は、そんなに頑張らないでいいと思う。
「じゃあ、アミちゃんは私が連れて帰るよ。二人はどうする?」
「俺は、少し修業しないといけないので、シューと狩りをしながら帰るよ」
「じゃあここでお別れだね。また明日だね」
そして帰り道、
「ねえ、どうしていきなりやる気を無くしたのかな?」
「冷静になると、なんでここで頑張らなくちゃいけないのかわからなくなったんだ。だって、いきなり将軍呼ばわりだよ。いきなり重役を与えられてもなんもできないよ。私には無理だよ。それに頑張る理由も思いつかないんだ」
「そっか。けどそうだよね。いきなりこんなところに連れてこられて、やれ強くなれだのやれ、統率しろなんて言われても困るよね。まあ一日考えてみてよ。それでも嫌なら、私が皆に話すからさ」
こうして私の何もない世界にきての二日目が過ぎていった。家に帰り、少し考えても、私がここで頑張る理由は無いと思っている。けどそんな自分が嫌になり、誰とも会わずに寝ることにした。
「……皐文、これ持って、異世界渡りできるか?」
「うん……って重! これ何キロ?」
「……元5トンだ。今はこの機械で、重力を弱くして、50キロだ」
「な、なんて物持たせるんだよ! まあいいか。じゃあ試してみるよ。後、長老から、三時間ぐらい行けるだろうと言われて、異世界渡りを今日から三時間することになったからよろしくね」
「……ん、そうか。じゃあここのメモにあるものを頼む」
「うん、いいよ。じゃあ行ってくるよ。神奈」
「ああ任せたぞ」
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