第18話 幸せな敗北
「テストを返すぞー」
終礼で告げられた担任教師の言葉に、俺と
これまで返されたテストでは、紅葉の方が2点リードしている状態。そしてこれが最後のテスト、つまりついに決着が着くのだ。
ドキドキしながらテストを受け取って席に戻り、こっそりと1人で確認した。
平均が67点、俺は86点。うん、十分いい点数だ。普段よりも勉強した甲斐があった。
しかし、相手はあの紅葉。90点台を取ってくる可能性はそこそこあるはず。まだ安心はできないぞ……。
「おいおい!お前、頑張ったなぁ〜!」
「ちょ、
死角から現れた渉流にテスト用紙を奪われ、慌てて取り返そうとするもひらりひらりとかわされてしまう。
ついには、「86点とか、勉強してんじゃねーよ!」と点数を暴露された。悪い点じゃないからそれは別に怒るほどでも無かったのだが、それを聞いた紅葉の反応がまずかった。
「…………」
テスト用紙を伏せると、机に思いっきり額をぶつけ、そのまま動かなくなってしまう。あれ、絶対俺が勝っちゃったからやつだ……。
「う、嘘つくなよ!68だから!」
「え、だってちゃんと86って……」
「68だ!そうだよな?な?」
「あ、うん、そうそう!見間違えちまったなぁ!」
俺が睨んだことで察してくれたのか、渉流も話を合わせてくれる。……しかし。
「このクラスの最高点は86点だ。よくやったな、
「……」
「……」
「……」ガンッ
担任の一言で全てが水の泡へと変わった。
「先生!
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「……あれ、ここは……私の部屋?」
「紅葉、起きたのか」
ベッドの上で体を起こした紅葉の背中を支えながら、水の入ったコップを手渡してやる。
「一郎が連れて帰ってくれたの?」
「ああ、荷物は渉流に持ってもらったけどな」
「ありがと……」
「あ、ちゃんとお前の顔はマスクとサングラスで隠したから安心してくれていいぞ」
「別にそこは気にしてなかったわよ」
話している感じはいつも通りだけど、倒れるくらいだからよっぽどなんだよな。この前の鼻血の件もあるし、小説が出てから執筆のプレッシャーで体が疲弊しているのかもしれない。
「一郎、勝負のことなんだけど……」
「俺の勝ちだよな。じゃあ、お願いを聞いてくれるか?」
「う、うん……」
俺は弱々しく頷いた紅葉の手をそっと握りながら、その目を見つめて『お願い』を言った。
「紅葉のお願いを聞かせて欲しい」
「……え?」
「秘密にしてただろ?それを聞いて、叶えてやりたい」
「で、でも……!」
「執筆も勉強も両方やって、それで83点も取ったんだ。俺よりずっとすごいよ。俺はそんなお前にご褒美をあげたい」
「っ……いいの?」
「ああ、なんでもしてやる」
俺の言葉に笑顔をこぼした彼女は、「じゃあ……」と呟くと、俺の目を見つめながら言った。
「……一郎としたいゲームがあるの」
「ゲーム?どんなゲームだ?」
「あのね、好きって言って照れたら負けのやつ」
「ああ、渉流が他校の女の子にさせられたっていってたな。全く照れなかったらしいけど」
「……それでもいい?」
「お前がしたいならいいけど、そもそも俺でいいのか?」
「一郎がいいの」
紅葉の顔がどこか熱っぽいが、やはりまだ体調が優れていないんだろうな。
まあ、元気になって「やっぱりこれじゃなかった!」なんて言われたら、別のお願いでも聞いてやろう。
「どっちが言うんだ?」
「一郎が言って?」
「わかった、いくぞ」
「……」コク
紅葉が枕をぎゅっと抱きしめながら頷いたのを見て、俺は息を吸い込む。そして渾身の『好き』を口にした。
「すk――――――――」
「ぐふっ……」
「ちょ、紅葉?!」
「むり、耐えられない……」
「あかばぁぁぁぁぁっ!」
これは……またクリーニングに出さないといけないみたいだな。
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