第16話 勝負はいつでも本気で
「あーちゃん、今日は大変だったみたいね」
「どうしてお姉ちゃんが知ってるの?」
「お母さんから聞いた」
「あのおしゃべりめ……」
私は小さくため息をつくと、執筆中のパソコンへと向き直る。
「
「し、してないから!……まだ」
「まだ?」
視界には入っていないけれど、姉のニヤリと笑う顔が頭に浮かんだ。どうせ今もそんな顔をしているんだろう。
「大好きな一郎くんの匂いで頭がクラクラしちゃったのかな〜?」
「っ……」
「うんうん、お姉ちゃんにも分かるよ。お姉ちゃんなんて、初恋の相手のベッドで鼻血どころか別の血すら―――――――――――」
「待って、何の話をしてるの?!」
「気になる?」
「べ、別に!」
ぷいっと顔を背け、姉の声はシャットダウン。タイピングに集中して、邪念なんてさよならばいばい。私は小説と旅に出る。
「ねぇ、あーちゃん?」
「……」
「お姉ちゃんはね、本当にあーちゃんには幸せになって欲しいと思ってるの」
「……あっそ」
「一郎くんなら安心して任せられるし、その手助けがしたい」
「お姉ちゃんの作戦はどっちも失敗したけど?」
「どっちも?あ、一郎くんのこと誘惑したんだ?」
「…………」
しまった、自ら墓穴を掘ってしまった。
「それで返り討ちにあって鼻血を……なるほど」
「勝手に納得しないでよ!」
「じゃあどこが違うのか教えてくれる?」
「っ……」
「ほら、図星じゃない」
お姉ちゃんはケタケタと笑うと、疲れたのか床に腰を下ろす。そして本棚から抜き取った一冊の本を開きながら、小さくため息をこぼした。
「お姉ちゃんにもう1つ作戦があるんだけど……聞く?」
姉が手に取ったのは、私が書いた小説。そこに書かれているのは私が実際に体験した一郎との思い出と、失敗した告白のこと。
書きかけの二巻にも失敗談が綴られているが、そろそろ成功のストーリーを書きたいと思っていたところだ。
小説のヒロインも、私自身も、結ばれて幸せになる。この物語は私と同じ道を歩んでいるのだから。
「一応聞いとく」
「ふふっ、じゃあ話すわね。今度の中間テストを使うのよ」
私は姉の話を聞いて思った。これなら行ける、と。
テストで一郎に勝つことが出来れば、障害なくゴールまで走り抜けられるはず!
その作戦の名は―――――――――――。
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「負けたら言いなり?」
「そう、その方が本気で勉強できるでしょ?」
「確かに、気が緩んでたところだしな……」
「じゃあ決まりね」
一郎は思ったよりも簡単にOKを出してくれた。
「もし勝ったら、紅葉は俺に何を頼むつもりなんだ?」
「それは……秘密よ」
「まあ、後でわかる事だからいいか」
「そう言う一郎は?」
「俺はそうだな、肩でも揉んでもらおうかな」
「……本当にそれでいいの?」
「いいもなにも、それくらいしかないからな」
「……そっか」
なんだろう。勝てばいいだけの話のはずなのに、勝負前から負けたような気がする。
まあ、今までの成績だって私の方が上だし、勝って一郎を言いなりにしてやるんだから。
この作戦の名前は『羞恥心で勘違い作戦』。
まず、私が一郎に好きと言わせて照れたら負けのゲームを申し込む。そして、恥ずかしさによる顔の熱さやドキドキを、恋愛感情と勘違いさせる作戦だ。
特に言いなりにする必要は無いけれど、断られる可能性もあるから念の為強制にしておくのが大事だとお姉ちゃんも言っていた。
つまり、この勝負で勝つことは必須。絶対に一郎から本気の告白をさせてみせるんだから!
「やってやるわよ!」
「おお、気合十分だな。俺も本気出さないとまずそうだ」
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