あの夏、あの人と……
樹 亜希 (いつき あき)
第1話
「また、ここに出た。さっきもここ通ったよね」
私は健志(けんじ)くんに声を掛けた。彼はマウンテンバイクで前を走っている。ここは東大路通りのようだ。蒼いTシャツを着ていた。
「ねえ、あそこ。出店があるよ。ヨーヨーすくいしない?」
振り向いて答えるが、先ほどの私の返事の答えではない。
私のことを気にもとめない子犬のような満面の笑顔で、自転車の速度を落とす。彼は神宮道で自転車を停める。
「友佳梨さん、ここに自転車停めなよ。一緒にチェーン掛けよう」
私はうんと返事をすると、大きな観光バスのガレージの外れに自転車を並べて歩き出す。
平安神宮の前にはたくさんの露天が出ている、そうか、七五三の時期なんだと私はぼんやり思う。色とりどりの綿菓子のポップな袋にはふなっしー、キティちゃん、今の流行・なんとかライダーなどが描かれている。
その隣はお面が目をくり抜かれて所せましとひしめき合うのを見て笑い合う。
私たちは、昼間の日差しの中、手を繋いで歩いている。
「お腹減ったねえ、はし巻きなんてどう?」健志君がうれしそうに私を見ていう。四百円か、少し高いなと思ったが、健志君が食べたいなら私も。
でも、これ以上太ったら困るから彼の分だけ。
「一本ください」
私がバンダの小銭入れから百円玉四枚をはちまきをして笑顔のお姉さんに渡すとできあがっているはし巻きを一本くれた。
「ねえ、友佳梨さんのは?」
「私、ネオンみたいな色のドリンクがいいな。インスタ映えしそうだし」
空腹だが、そこは話をそらして行く私。三軒ほど向こうにひときわ目を引く空間があるほうを私は指さす。
「ほら、食べて!」
健志君が私にはし巻きを向けた。
そこで、私は目が覚めた。
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