第10話

「久しぶりですね。元気でしたか?」

 客待ちの状態で数名の車引がそばにいた。私は軽く頭を下げると、横断歩道を渡ろうとした。桂木さんがなんのわだかまりもなく、ニコニコと笑っている。

「カンナさん、今度、良かったらだけど、ここにいる三人と食事に行きませんか? 僕の奢りでいいんで。お友達何人読んでもいいですよ」

 真っ白な歯を見せて笑う人。

 この人はなぜこんなに無垢な魂を持っているのだろう。私がどんな思いで今まで生きてきたのか、すべて話したはずなのに。懲りずに何度も何度も、私の心の扉を叩き続けるなんて。

 私は思わず笑い出した。すると桂木さんも笑い出して、そばで聞いていた車引きの仲間も笑い始めた。


「達也さん、この人が憧れのカンナさんですか? 僕たちも一緒に行ってもいいんですか?」

 一人だけとても若い男性、二十歳そこそこだろうか。

 お客さんを乗せてそう言い残すと笑顔で走り去った。観光客のお客さんも笑顔で手を振ってくれたので私も自然と手を振り替えした。

「おう、ごくろうさん、気をつけて!」

 もう一人の客待ちの人力車も年配の夫婦を乗せて、走りだそうとしていた。

「気をつけてな!」

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