第4話

 重苦しい沈黙の中での食事は砂を噛むようだった。

「もう、いい」

「食べてないじゃないか」

「夏バテなの、ごめんなさい」

 私は普段はこんなにわかりやすい嘘をつかない。食べられるはずなんてないじゃないと思ったのは私だけ。今日はもうすぐ来る私の誕生日、八月四日のお祝いのデートだった。

「今から神社なんて開いてないよな」

「日没で閉門というのが普通でしょ?」

「ライトアップとか、やっているかも。行ってみよう」

 庸二さんは立ち上がり、私の手首をつかんで会計を済ませると車へと向かった。私は帰りの車内の気まずさを計算して何も知らない愚かな女のふりをした。

 いつものように助手席に座る。教師に夏休みなどない、クラブだ遠征だとか庸二さんに自由な時間などないことを私は知っていた。

 普通のカップルなら、どこにでも行けるはずなのに、なぜ私だけ……。


「少し飛ばす。カンナ、ベルト」

「ええ、大丈夫です」

 急になぜ、閉門されている神社に行こうといいだすのか、違和感を持ったが、私は沈んだ気持ちで何も言い出せずにいた。綱渡りのような数時間は残りわずかだ……。私の心は震え、何度も横顔を見て目に焼き付けようと思う。いつか、庸二さんは誰か、ほかの女性と結婚するのだろう。私のことはただの昔の教え子であり、慕われているから付き合っているだけ。わかっていたはずなのに、この一言が言えない私はしつこい嫌な存在なのだと思う。庸二さんの優しさに甘えているだけ。

 神社の山門は閉じてある、それは当然のことだった。防犯カメラがないか確認すると低い木の門を開けて中に入る。

「大丈夫? 教師クビになるよ」

 私が聞くと、少年のように笑って暗闇の中を進む。

「本堂までは行けそうもない」

 

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