愛のかけらが心の隙間に差し込む・油断

「お願いだ、助けてくれ」

 初めて晃司は私に哀願する、苦しげに喘ぐけれど、もう少しお仕置きが必要ねと思いながらもベルトを持つ手が緩んでしまう。このままじゃダメだとは思っていた、でも許せないと思う私と、許してあげたいと思う私が同じ体を支配している。

 愛しているから。また許してしまう。(ごめんね、こんなことして)


「げほっ、ごめん。友佳梨を苦しめたのは俺だ。だけど、もう二度としないからやめてくれないか」

 私はうずくまり、自分の冒した晃司への愛の重さにうんざりして泣きじゃくる。こんな男など殺す必要もない。邪魔くさいんだよ、愛なんて。捨ててしまえ、愛なんて。好きすぎるあまりに暴挙に出た自分のことが許せない、が、それ以上に重い愛が邪魔になる。どうしてこんなにも深く愛してしまうのだろう。

「もういいよ、私もやり過ぎた。でもね、わかるでしょ? 私の友達、凜香だけはだめでしょ」

「すまない。ごめん、ほんと、悪いのは俺だ。でも、言い訳になるけれど、あっちが俺を誘うんだ、だから……つい」

「なに? それ、いま、言い訳するところじゃないわよね。謝る場面じゃないのかなあと思うけど。つい、そんなことになってたらきりがないわ。他のカップルがみんなこんなことしてる?」

「でも本当に凜香ちゃんが友佳梨のことで、話があるというから。食事に行ったあと、酒を飲み過ぎて気がついたら、あんなことになっていたんだ」

「聞きたくないわ、そんなこと。その手があの子の十八番なのよ。いい子だけど、人のものを欲しくなるの、わからない? それぐらい。あなたのことなんか愛してはいないって!」

 晃司に隙があり下心を凜香に読まれているからあんなことになるのだろう。お互いに同じ穴のなんとかというやつじゃないかと私は思う。

 私は緩めた手にまた力が入ってしまうことを止めることができなかった。私の気持ちは、どうなるかなんて全く分からない。許せないと思う気持ちがまた火を噴く、私がこんなに愛しているのに、お前たちはただの獣じゃないか。

 なんでこんな女たらしのことが好きになってしまったのだろうか、自分のことまでが嫌いになってしまう。こんな男の為に私は、私は……。渡ってはいけない川を渡ってしまったのに、どうして分かってくれないのだろうか?

 私だけの晃司でいて欲しい。思い切って力を入れる、楽しかった日々はもう戻らない。私は目をつぶり、今までの思いを断ち切る為に歯を食いしばる。

 さようなら晃司、そして私の喜びとすべての愛をあなたに。私だけの晃司になって!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る