推し部! 推しは推せるときに推せ!
名来ロウガ
プロローグ
『コンダクトファンタジー』というライトノベルがある。
知名度は高くないものの、異世界で繰り広げられる剣と魔法のファンタジーという王道の展開を行く一方で、主人公は前線ではなく後方で仲間たちに指示を出して戦っていくという少し変わった設定がウリの作品だ。現在も連載を続けており、4巻まで発刊されている。
読者の年齢層はまちまちらしいが、少なくとも高校生である僕、
僕の数少ない友人に勧めようにも、『コンダクトファンタジー』の魅力を分かりやすく手短に説明するのは今の僕には困難で、説明した友人の返答は時間があるときに見てみるよ、という回答が大半を占める。
そのため、残念ながら他人の感想はもっぱらインターネットで眺めることでしか確認することが出来ない。
共感できる感想や、逆に反感を覚えるような感想も見るが、どちらにしても同じ作品を自分以外にも見ていることに安心感を抱く。
少なくともこの作品は読んでくれる人間が僕だけなら連載は続いてくれないからだ。出版社や作者も慈善事業ではなく、仕事としてより良いものを作り出そうとしている。そのおかげでいいものを読ませてもらえてるのでありがたい限りなのだけど。
だからこそ、その読んでくれている誰かと語り合いたい。願わくばインターネットの感想とは別の、熱のこもった生きた感想を誰かと思い切ってぶつけ合いたい。
だが、今の状況だと叶わない夢である。今日も今日とて最新刊を授業の合間合間に読み進めていって、気づけば放課後1時間経った頃だった。
「あ……もうこんな時間か。そろそろ帰らないとな……」
この高校の良いところは部活に所属する必要がない事と、放課後の教室に居ても誰の邪魔にならないこと。おかげで帰宅よりキリの良いところまで読み進めるのが僕の中で優先されている。
机の中の教科書やノートを鞄にしまい込んで、最後に最新刊を制服のポケットに入れて立ち上がる。すると、教室の入り口に誰かが立っていた。
「理有くん、今から帰り?」
「あ、
「そうなのね。それでこの後の予定とかってあったりするかしら?」
「え?特にはないけど…………」
そういうと彼女————
こうやってわざわざ話したりするような仲ではない、はずだ。
ただ、彼女のことが苦手というわけではなく、その逆でクラスの中心で誰とでもコミュニケーションの取れる彼女に憧れの念を抱いている。
そんな彼女がどうして僕の予定を気にするのだろうか?と考えていると考える素振りをやめてこっちに向きなおした。
「…………それなら先に謝っておくわ。ごめんなさい」
「え?」
そう言うや否や、推乃さんは僕の腕を掴み、そして僕の身体をぐんっと引っ張って走り出した。
走り出した?
「え、ええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
驚きのあまり、推乃さんの後を走っていく。放課後の人気の無い校舎をバタバタと足音を立てて駆け抜ける。先生に見つかれば注意されること間違いなしだ。
時には階段を下り、長い廊下を直進して進む。
それから5分もしない内に2人の足は校舎の隅っこの方にある教室の前で止まっていた。確かここは使われてない教室だったような……
そう考えながらぜーはー言ってる僕を尻目に彼女は扉を開ける。
「ごめんなさいね理有くん。そしてようこそ」
仰々しいと言って差支えの無いポーズで彼女は続ける。
「推薦書物選定部……通称『推し部』へ!」
彼女の言っている部活は聞いたことがない。今まで影も形もなかったはずの部活に彼女はどうやって関わっているのか、疑問は浮かんだものの息を整えるのに神経を注いでしまいその疑問はこの場ではそのまま消えてしまった。
ただ僕の学校生活は、この出来事を機に大きく変わっていくことになるが、それはまた後のお話。
推しという概念を僕は、この部活で知ることになる——————
推し部! 推しは推せるときに推せ! 名来ロウガ @nakuru-rouga
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