俺と不幸の魔女
合歓木
プロローグ
だらだらと腹部から流れる血で男は死期を悟った。
随分と前に作った傷から流した血の量が多すぎて、思わず膝をつく。
「ーっ!!」
一緒に町の住民の避難の殿を務めていた彼女の声が聞こえる。
ここで倒れてはいけない。
男は気力だけで剣を支えに立ち上がった。
視線を上げて前を見据える。
少しだけぼやける視界に人影が映る。
ここまで来たか…。
彼女を連れて来るんじゃなかった、と後悔が過る。
「…何、怪我してんのよ」
愛しい彼女の声が隣から聞こえると共に体が支えられた。
いつも着ている綺麗な青いローブが血で汚れてしまうにもかかわらずだ。
「ごめん…」
「謝るのは後よ」
毅然とした態度に笑みが溢れ落ちる。
「そうだね」
「とりあえず、足止めするわ」
彼女は詠唱もせず、空いている左手を振るうだけで敵兵の足を止めさせた。
さすが、だ…。
もう、彼女、の、魔法を、見、ることも、ないんだろう、な。
途切れ途切れになる思考を必死に繋ぎ止める。
「あなた達の隣にいる仲間と思っていたヤツは敵よ」
囁くような指示に意思と反した行動をさせられて驚く敵兵。
「-、行くわよ」
「…ごめん」
力が抜けて、彼女諸共その場にしゃがみ込んだ。
「ちょっと…!!」
不安が混じった声音に口元だけ苦笑を象った。
「もう、無理みたい、だ」
「嫌よ…ッ!!」
男は寄り掛かった頭を持ち上げ、彼女の顔を見る。
泣きそうだった表情から、ぼろぼろと涙を流す表情に変わっていた。
「泣かないで…」
「嫌ッ!!嫌よッ!!」
泣きながらの懇願に気持ちが昂る。
今更ながらな感情を抱きつつ、口を動かす。
「あい、してる、よ」
「…ッ!あたし、あたしもッ!愛してる…!」
涙でぐちゃぐちゃな顔でも綺麗な顔だと思いながら、手を伸ばした。
「…さいしょ、で、さいご、の、ま、ほう、だよ」
「……っ」
「また、らいせで、も、あお、う…タニア…」
ずるりと落ちた手に急に重くなった体に最後の最後に悲鳴のような声が聞こえた。
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