犯人 その漆

 高田も早稲田を疑いたくはない。なぜなら、彼は犯人を知っていて、早稲田ではないことをよく理解しているからである。「新島。俺も獅子倉の膝を強く叩いた犯人は早稲田じゃないと思うんだ。他の犯人らしき奴を、これから片っ端に探していこうじゃないかっ!」

「ああ、ありがとう高田!」

 高田は内心では笑っていた。今まで数々の事件を解決してきた博識の新島だが、高田が考えに考えたトリックを容易(たやす)く見破ることは出来ないらしい。ちょっと口元が緩みそうだったから、高田は下を向いた。「俺、今日は帰るよ」

「そうか? 早すぎないか? まだ時間はたっぷりある。抹茶とかも、今日は飲んでないだろ?」

「今日は用事があるんだよ。悪いな」

「わかった。なら、今日の烏合の衆の会議もここまでにしようか?」

 満場一致で烏合の衆の会議は終わり、新島、土方を除く三人はマンションを去って行った。

 高田は新島のマンションからかなりの距離を離れてから、大声で笑い出した。新島を欺けたことが、彼にとっては一番嬉しかったのだ。

 しかし、すぐに隣りにいた人物が高田の笑いを止めた。

「新島を騙せたことが嬉しいのかもしれないが、今はやめろ」

「君だって、一応共犯だ。仲良くしようよ。最終的に、警察が介入してしまえばバレてしまうんだからな」

「わかっている。獅子倉の膝は強くし過ぎだようだが、全てうまくいっている。新島も早稲田や他の人物を犯人だと思い込んでいるし──」

「俺達の悲願は達成されそうだな」

「その通りだ。疑われるのを避けるために、わざわざ大掛かりなトリックを用意したのだからな」

「ハハハハハハハハハハハハハハハ! 新島は鈍器をハンマーだと思っている。ちょっと面白いよな?」

「笑うな。獅子倉に失礼だろ? 奴はもう歩けんだろう」

「いっそのこと、アキレス腱を切ればよかった」

「いや、アキレス腱はまた治る。獅子倉を歩けなくするには、膝をあれで強く殴打するしかない。その鈍器も、すでに消え去ったわけだから証拠は何一つ残されていない」

「面白い! 笑いが止まらなくなってきたな。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

「公衆の面前で何をやってるんだ! 恥ずかしいだろーが!」

 高田は共犯の仲間から、強く尻を蹴飛ばされた。「痛っ! 痛! 悪かった、悪かったよ......」

「それでいいんだ」

「へいへい」

 高田は口元を手で覆った。いろいろあったのだが、高田は自宅に到着するとスマートフォンを取り出して電話をかけた。

「もしもし? 高田だ。新島をうまく騙すことに成功しているな。何? 新島にバレるかもって? 大丈夫、安心しろ。その時は新島にけりをつける時だ。けりとは何かって? 簡単に言うことが出来ないが、強いて言うなら、新島を処分することだ。うん、そうだ。新島を処分することなど簡単なんだ。獅子倉よりあっさりと、けりをつけることが可能だよ......うん」

 高田は電話を切ると、スマートフォンを机の上に置いた。椅子から立ちあがると、ボクシングの練習を始めた。ボクシングの練習は一時間続き、汗を拭ってベットに倒れた。

「これで明日は準備万端だ!」


 翌日、高田は自然と学校に登校した。それから、放課後になるととある部屋へと入っていった。「俺をここに入れてくれ」

「君は文芸部の高田弘君だね」

「そうだ」

「......わかった。──おい、お前! 高田の相手をしてやれ」

「わかりました」

 高田が前に出ると、かなり筋肉質の男が出てきた。高田は急いで一歩踏み出し、拳を握って相手の腹を目掛けて突いた。相手はそれを避けて、右脚を高く上げた。高田は後退し、一度離れた。

「少しは出来るようだな」

「お前こそ!」

 高田は一気に距離を詰めて、靴底で相手を蹴り飛ばした。相手が少し行動を止め、その隙に高田は相手の膝裏を蹴って倒した。高田が馬乗りになったところで、バトルは止められた。

「そこまでだ。高田は今日から仲間だ。高田は練習してきたのか?」

「ボクシングをちょっと」

「君は即戦力だ。前線で戦ってもらう。いいね?」

「ああ、大丈夫だ」

 高田は万事うまくいきすぎて怖くなってきた。簡単にここにも入れて、また新島にも犯行がバレていない。数日で全てが解決出来る。これから、高田は次のターゲットとして早稲田の後を着いていく。早稲田を調べ上げるにはかなり時間を必要とするだろうが、ターゲットとして申し分ない。

「あ、今日は用事あったからもう帰る!」

 高田はそう言うと、文芸部の部室にも寄らずに下駄箱で外履きと履き替えた。正門で待ち構えていると、早稲田が出てきたのでこっそりと着いていった。距離が近いと追いかけているのがバレてしまう可能性もあるから、結構な距離をとった。早稲田が角を曲がってしまうと見失うかもしれないから、その場合は走って角を曲がる。早稲田を追っていると、家の住所や性格、様々なことがわかってきた。でも、まだ不確かなことが一つだけある。それは、なぜあの日に裏門で黒い服とハンマーを持っていたんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る