第288話 根源にあるモノ
攻撃・防御・機動力・魔力出力・空戦能力――レスターの力をも取り込んだマルコシアスの力は、全てにおいて常軌を逸脱している。いや、最早そんな言葉で表せる様な領域ではない。
そして、こちらの戦力は事実上、俺達だけ――。
「我を前によく保ったものよ。貴様らの顔は二度と忘れる事はないだろう。しかし、ここまでだな」
マルコシアスも無傷ではない。だが、未だ奴の体力は無尽蔵。対して俺達は、四肢欠損などの重傷こそどうにか負っていないものの、体の各所に傷を作っている。長時間かつ死闘の連戦の中で疲労の色を隠し切れないでいた。
「消え去れ……ッ!」
「させるものかッ!」
混沌の黒閃が奔る。
雷轟の一閃が煌めく。
深淵の剛裂が世界を震わせる。
再び始まった戦闘。
水流の矢、色とりどりの魔力弾が爆炎の華を咲かせる。
激流の刺突、紫天の斬撃が大地を砕き、橙の拳が連続で突き出されていくが、闇の光閃によって全て斬り伏せられてしまう。
だとしても、俺達の足が止まる事はない。
それぞれの境地に至った者達が死力を尽くし、幾度も魔法を交錯させる。弾かれた魔力が山を吹き飛ばし、巨大な城壁を破砕する。武器を振れば、魔法を使えば、地形そのものが変わってしまう。これまでの戦いとは規模が違う。正しく死闘。
だが、どちらが優勢なのかは言うまでもないだろう。俺達の傷は更に増え、吹き飛ばされる回数も同様。倒れて起き上がる間隔も長くなっていく。連携も乱れ始め、徐々に精彩が失われていく事に対し、俺達の誰もが自然に焦燥感を覚え始めていた。
しかし、相対するマルコシアスは、未だ強大な魔力を迸らせている。戦意は十分。これが神話の大戦を駆けた英雄の底力という事なのか――。
負けない闘いならまだ出来る。でも、勝つ為の戦いとなれば話は別だ。このままでは各個撃破され、全滅は必至。何度も揺れ動いた天秤は、この局面に来て間違いなくあちら側に傾こうとしていた。
「どうして……ここまでして戦おうとする!?
「静寂の世界……。そして、新たな世界。地上に蔓延る膿を一掃し、あの方が望んだ魔族の世界を再構築する」
「この滅びは……やはり、その為の……!? だが純血の生き残りは……」
「確かに
「まさか、お前の様に生き永らえ、まだ目覚めていない魔族が他にもいるとでもいうつもりか!?」
「さあ……どうだろうなァ?」
闇の剣戟をぶつけ合う。
螺旋を描く様に機動を取り、戦闘高度が上がっていく。
「再生の為の破壊……」
「如何にも……。腐り切ったこの世界は、もう救えぬ。そして、犠牲失くして変革はあり得ない。盲目の正義が悪だと、貴様も分かっているはずだ!?」
「――っ!」
「周りを見ろッ! 今までの自らの半生を思い出せ! 世界はこんなにも醜い! 否、我らが駆けた世界を……ここまで堕落させて来たのは誰だ!? 浅ましく穢し続けて来たのは誰だ!?」
――君に与えられる
――貴様はグラディウス家始まって以来の汚点だ!
――
――この無能はまともに魔法も使えやしねぇんだから!
――お前のアイテムは俺達が使わせてもらうぜ! どうせガルフの家の物には変わりないし、無能よりも俺達が使う方が
――というわけで、お前は追放だ。さっさと死ねよ。
――おいおいおい――ッ! “金色の戦帝”と組んでる奴がGランクって、どうなってるんだよ! まさか何か弱みを握って脅迫してるんじゃないだろうな!?
――脅迫……無理やり寄生してるって事か……。
――いや、最低だわ。マジで!!
――この下種野郎! 彼女を開放しやがれ!
――うわ最低! ありえないんですけどーッ!!
――そこの貴方、間もなく刑務隊がやってきます。冒険者ライセンスと武器をこちらに渡してください!
――おい皆訊いたか!? このゴミガキ、こんな訳の分からねぇ武器を使って俺様をどうにかする気らしいぞ!?
――共闘……? 貴様らが我々と?
――全く、何をどう思い上がったら、そんな台詞を吐けるのやら……。
――低頭平身で頼みに来るのなら、末席に加えてやらない事もなかったのだがな!
――認めない! ランサエーレが権力を失うなんて絶対に認めないわ!
――私はランサエーレ家当主だぞ!? 私こそは選ばれし者!!!! 当主なんだぞォォォぉ!!!!
――
――帝都で一旗揚げて、俺を虐げやがった連中に復讐するんだよッ! テメェみたいな甘ちゃんが、邪魔すんじゃねぇぇぇぇッッ!!!!!!
――戦わずに済むならそれでもいい。だが、戦う自由もあるはずだ。それすらも封殺された世界など一度全て壊してしまえばいい。例え全てが死に絶えてでも……。
「く……っ!?」
脳裏に過る数多の記憶。
それは多分、マルコシアスの問いに対する答え。
負の感情と自己満足の正義が創り出した、今を生きる者、過去を生きた者達――世界の本質。根源的な歪み。
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