第239話 異次元の武器
「■、■■■■――!!」
闇氷の竜が首元に喰らい付き、ファヴニールの首から腹部にかけての半分ほどを巻き込みながら凍結する。
「一撃で倒せるなんて端から思っていなかったが、流石に固い……」
上下からの挟撃。これでファヴニールの意識はルインさん達から外れて俺に向く。
「■■■!!!!」
灼熱のブレスが天空に向けて放たれる。だが、どれほど出力が凄まじかろうと、来るのが分かっていれば回避は可能。更にそのタイミングを見計らって、再びルインさん達が遠距離攻撃を放ち、ファヴニールに直撃させる。
しかし、普段なら必殺になりえる一撃も、僅かなダメージを与えるに留まった。さっきの俺の斬撃も強靭な鎧の様な鱗を突破するに至っていない。でも、そんな事は先刻承知。邪竜の気が逸れた所に肉薄し、
「■、■■■■■■!?」
連撃に次ぐ連撃。一手でも多く、一手でも
火力、機動力、防御力――それにプラスして高高度での高速機動戦闘。厄介極まりない相手だが、奴の再生能力は一般の狂化モンスターよりもかなり劣る。高位生物として卓越しているが故の現象なのだろう。セラスの証言やあのマルコシアスが直接従えている辺り、その証明となっているはずだ。
尤も、俺達三人がかりでも大きなダメージを通せないどころか押し切れすらもしないところからして、躯体に大きな負荷をかけるであろう
「とりあえず
ファヴニールの脅威はブレスだけじゃない。口元から覗く牙、鋭い爪に長い尾、硬質化している翼、刃の如き鱗の一片に至るまで全身凶器と称して差し支えない程だ。その上、巨大な体躯の通りというべきか、体力までもが異次元。
僅か一体で帝都を討ち滅ぼしかねない戦闘能力からして、本来は騎士団総出で戦うのが相応しい相手――単純なモンスターの枠組みに捉われない災害級の存在を相手にしているのと変わりない状況にある。その辺りを加味すれば苦戦して然るべきだが、今はそうも言っていられない。
奴の防御を突破し、どうにかダメージを通したいところではあるのだが――。
「アタシが隙を作る! その間に二人でぶち込みなァ!!」
そんな時、眼下のセルケさんが叫ぶと共に彼女の武器が異変を見せる。
「あれ、は……」
身の丈を超える太い大剣は薄い魔力光を纏って各所が分離、パーツがスライドして剣という形態そのものが別の枠組みに組み変わっていく。それは人間と魔族――双方との戦いにおいても全く見たことがない異質な現象であり、俺の様に戦況に応じて武器を換装したり、魔族の様に自らの魔力で武装を作り出す能力とも根本的に異なる。
その現象に敢えて名前を付けるとすれば――。
「まさか、武器が変形した!?」
大剣から巨大砲塔へ――それは正しく“武器の形態変化”。そんな異質とも取れる現象を隣で目撃したルインさんも大きく目を見開いている。
「こいつはダイダロスの武器屋オリジナルの一点物! アタシが手を加えた試作品だからねェ……生憎と威力の調節は出来ないよ! くらいなッ!!」
そんな俺達の驚きを他所に、セルケさんは左脇に抱えた巨大砲塔から砲撃を撃ち放つ。
「“ゼピュロスブレイザー”――ッッ!!!!」
迫り来る翡翠の砲撃――俺達を煽る様に放たれた一撃は空を切るが、これまでと毛色の違う攻撃を受けてファヴニールと共に足を止める。その間にセルケさんの砲塔から蒸気が噴出、上空の俺達が眼下に意識を向けきる前に更なる砲撃が撃ち放たれる。
頼もし過ぎる援護ではあるが、その光景は俺やルインさんに途轍もない衝撃と驚愕を与えるものだった。
「馬鹿な……大剣で砲撃魔法を撃つなんて……!?」
俺や“
そんな
一応、近接職が砲撃魔法、後衛職が斬撃魔法を習得するという事例こそなくはない。しかし、それぞれの武器に適した魔法で発動させた方が威力・コストパーフォーマンス共に優れるし、はっきり言ってしまえばそこまでして適性が居の魔法を習得するメリットは皆無だ。飛び道具が欲しいのなら俺やルインさん、さっきまでのセルケさんの様に斬撃魔法を撃ち放てば解決するし、逆も然り。
発生速度や燃費、射程云々の差異はあれど、短所を治すよりも長所を伸ばす方が効率的でメリットは遥かに大きいという事だ。
だからこそ、こんな緊迫状態において、そんな非効率的で生産性に欠ける行為を行うなど、普通に考えればありえない。
しかし、剣士職のセルケさんは大剣を別の武器に変質させた形態で、この混沌の戦場でも通用するだけの砲撃魔法を乱射し続けている。武器の形態変化だけでも理解を超えているのに、こんな状況まで見せつけられてしまったのだから、引き続き戦闘行動を行っている俺やルインさんの困惑は深まるばかりだった。
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