第196話 世界に見放された者達
迫る長剣を
「はああっっ!!!!」
「ちょこまかと……」
銀閃を振るって来るのは、模擬戦の相手であるロレル・レグザー。長物の
“ミュルグレス”、双翅、
「“ディバインスラッシュ”――ッ!!」
優勢な状況で攻め切れない事に業を煮やしたのか、ロレルは斬撃魔法を発動させた。速く鋭い一撃だが、通常斬撃よりもモーションが大きい。その一瞬があれば、回避には事足りる。
背後に跳ぶと共に、
「な、な――っ!?」
それを見たロレルは驚愕の表情を浮かべる。何故なら、俺達の位置取りは長剣の
「終わりだ――!」
「がっ――!?」
そのまま槍のように
「くそっ!? これまでか……」
吹き飛んだ武器を見たロレルは悔しそうな表情をしたかと思えば、訓練場の後ろに引っ込んでいってしまう。そんな様子を静かに見送っていると、背後からいきなり声をかけられた。
「そういえば、彼……一群に居るのに、あんまり魔法を使ってるところを見た事ないね」
「――ルインさん」
「ん、なぁに?」
「声をかけるのなら、前からお願いします。ビックリするので」
「んふふ、善処するね」
俺に話しかけてきたルインさんはいつもの意趣返しとばかりに笑みを浮かべると、肩同士がぶつかり合うように隣に立って来た。まあ、実害があるわけでもないし、ルインさんの話題に少し興味を持ったのでそのままの体勢で話を続ける。
「確かに彼が強い魔法を使っている所を見た事ないですけど……。ルインさんも一群で一緒だったのに知らないんですか?」
「うん。気にした事なかったから」
「可哀想過ぎて涙が出るぜ」
そういえばルインさんは以前の大規模模擬戦でロレルと共に戦っていたと思い返しながら疑問を投げかけるが、彼女の返答はキレッキレの天然発言。思わず目頭が熱くなる――程までは奴と親しいわけじゃないし、苦笑を浮かべる事しかできない。
「――中々、手厳しい言葉だね。アレでも出来ないなりに結果を出しているのだが……」
そうこうしていると、今度は別の人物から声をかけられる。またも背後からの接触であった為、これが流行っているのかと呆れながらも訊き慣れていない声を受けて背後を振り向く。視線の先に居たのは、遠征組のリーダー格――ブレーヴ・バーナ。
俺達からしても知らない顔ではないし、実際ロレルについては思う所がないわけではない。来訪者に動じることなく疑問を呈した。
「出来ないなり、ってどういう事ですか?」
「うん。騎士団側だと最年少の一群だと思うんですけど?」
「そうだな。確かにロレルには才能がある。それが評価されての今の地位だが……ロレルには才能がない。それが二人の疑問だと思う」
「えっと?」
「本人の了承を得ずに過去を話すのは気が引けるが、殆ど周知の事実だし、今のままの方が連携に差し障りがありそうだから軽くだけ説明しようかな」
俺達は歯切れの悪い解答に疑問符を増やさざるを得ない。そんな様子を見て苦笑いを浮かべるブレーヴは、事の真相を語り始めた。
「まずだけど、ロレルは“魔法適性”が高くて才能溢れる戦士だ。これは大前提だね。でも、アイツはその才能からすればあり得ない程、“魔力量”が極端に少ないんだよ」
「適性が豊富で極端に魔力量が少ない……なるほど、それが魔法の多様性に乏しい原因ですか……」
「そっか……それならある意味、
“魔法適性”は、斬撃・治癒・強化魔法等の魔法術式を発動させる事が出来るかどうかの資質。
“魔力量”は、文字通り術者が保持する魔力量の総量値。
これらは天啓の儀における
対して“魔力量”は、年齢を重ねて身体が成長するのに比例して一定地点までは自然に増加していく。しかし、初期値・増加量・最終値――どれも千差万別であり、“魔法適性”に比べればやりようはあるが、結局の所は“才能”にカテゴライズされている。
「受け入れる器が大きいのに湧き出る水が少ない。魔法を使えば、魔力という水が一瞬で干上がってしまう。だから身体強化と基礎魔法だけで戦ってたのか」
「二つとも先天的な部分だから、努力じゃどうにもならない。歯痒いね」
「君達が言うと中々重いというか、得てして妙なものだな。でも、ロレルが悩んでいるのは、そういう事だ」
まだ成長期とはいえ十代後半ともなれば、本人の肉体も完成秒読みだ。“魔力量”だって余程のイレギュラーがなければ爆発的に増える事はないし、正直頭打ちだろう。
つまりロレルが直面している問題が解決する可能性は限りなくゼロに近いという事だ。
ロレルの過去――それは自分の力の無さと世界の不条理に苦しんだ俺達にとっても、思い当たる節がある内容。
「私達とは別の形で世界に見放されたって事なのかな」
ルインさんは悲しそう表情を浮かべながら、俺の服の袖を握って来た。
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