第195話 動じぬ女達
話を訊いていた感じ、徹頭徹尾ガルフに非があるのだろう。俺だって今もグラディウスを名乗り続けている以上、キュレネさんに謝り倒す事しか出来ない。
「――アレでも一応弟ですから、アイツが粗相をしたのなら俺からも謝ります。すみません」
「あらあら、別にアークは悪くないじゃない。お灸は据えておいたからもういいわよ」
キュレネさんは合法的にお仕置きしたと笑って許してくれた。しかし、罪に問われたりするわけではないが、さっきのガルフの言動はやはり目に余るものがある。キュレネさんへの迷惑は勿論、グラディウスそのものの地盤が揺らいでいたかもしれない問題行動だったからだ。
「でも……いくら結果が出なくて焦っているとはいえ、やって良い事と悪い事の分別を見失っているのは大問題ですから……」
確かに名家として力を誇示したり、更なる権力を求めるとすれば、人道的にどうかと思えるような行動が実は正解だというケースもある。実際、
だが、ガルフの行動はそれにすら当てはまらない。周囲が成果を出していく中、立ち止まってしまって傷付いた自尊心を満たす為に落ちぶれたランサエーレ相手にマウントを取ろうとしただけの自己中心的な物でしかないからだ。
何も知らないガルフにランサエーレやキュレネさんの事情を理解しろというのは土台無理な話だが、それを差し引いても奴の行動は人としても名家としても間違っている。
極論ではあるが、そんな問題行動だったとしても帝都最強に名を連ねるキュレネさんに勝てさえすれば、色々と状況は代わっていただろう。所詮、他人は結果でしか物事を評価出来ないからだ。でなければ、元
だからこそ、そこで結果を出せずに自爆したガルフに弁解の余地は皆無過ぎる。
「大丈夫、大丈夫。弱っちかったから、全然疲れてないし」
「あはは……それは、どうなんだろ?」
「アークの弟なのにか?」
他の女性陣も気を使ってくれているのか随分と軽い雰囲気だが、はっきり言ってキュレネさんに申し訳が立たないというのが正直な所だ。何故なら、今のキュレネさんは最低限とはいえ当主としての活動もしている為に、一戦闘員である俺達よりも多忙な立場にあるからだ。
無論、単純に友人として申し訳ないという気持ちも大きいが、何というか――やっている事の程度が低すぎて謝罪で済む気がしない。
「そうねぇ……じゃあ、アークからお詫びしてもらおうかしらねぇ?」
「は……ほわっ!?」
遊びに行った先で自分の子供がやらかした親の気分を味わいながら平身低頭だったが、目の前のキュレネさんに押されて観客席に腰かけさせられる。何事かと思えば、なんとキュレネさんは俺の膝の上に座り、長い脚を組みながらしな垂れかかって来た。目の前に広がるのは、妖艶な微笑み。
「それじゃあ、何してもらおうかしらぁ?」
「だーかーらー! アーク君に引っ付かないでって言ってるでしょ!!」
「いやん、たすけてー」
訓練場の視線が俺に集まるが、ルインさんがキュレネさんを引き剥がそうと動き出す。それを逃れる為にキュレネさんが大根役者張りの演技で俺へと――彼女を引き剥がすためにルインさんがキュレネさんに抱き着いて来た。
何かの民芸品のように俺、キュレネさん、ルインさんと順に折り重なる訳の分からない状況。
「全く……お前達は……」
セラスが俺の後ろからキュレネさんの拘束を解こうと奮闘してくれているが、後頭部に広がる幸せな感触を受けて少々密着し過ぎだと別の意味で嘆息が漏れる。完全に無自覚なのが更に質が悪い。
だが、今の俺達は訓練の真っ最中。そんな事をしていれば当然――。
「そこの四人ッ! 何をやっとるかァ!! いくら優秀でも限度があるぞ!!」
デルトの首根っこを掴み上げた指揮官に怒られてしまうわけだ。
「あらー」
「言わんこっちゃないな」
「――というか、セラスまで後ろから抱き着いて何をやってるのかなぁ?」
まあ、この女傑たちがそんな事で動じるわけもないのだが、不承不承で離れていき元の訓練に戻っていった。
「身体は休めたけど、心労はハンパないなぁ……。まあ、役得ではあったけど」
再び一人になった俺は、
大きく膨れ上がった闇の刃は研ぎ澄まされ、以前よりも遥かに切れ味を増した。他の皆も同様に決戦に向けて力を蓄えている。
限定的とはいえ、ランサエーレは復活。弓の名家――“アルクス”は遠い過去に滅び、今回の大戦においては“ニルヴァーナ”が実質的にその地位に就いている。
帝都騎士団・冒険者ギルド、グラディウスを始めとした各地に散った名家たち――。対魔族共同戦線には、人類最強の戦力が集っていると断言しても良いだろう。決して問題がないとは言わないが、戦力数値としては最良に近いはずだ。
そして、相克魔族である協力者――セラス・ウァレフォル。
全ての力はこの帝都に集った。
決戦の時は近い。
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