黒銀ノ死神~職業無しなのでパーティーを追放されたが、特異職業“処刑者”だった事が判明。処刑鎌を極めたら最強になりました。今更戻って来いと言われてももう遅い。拾ってくれた美女とパーティーを組んだので!~
第128話 無幻――Resurrection Days
第128話 無幻――Resurrection Days
朝、朗らかな日差しに照らされる中で、固く閉じられていた
随分と深く眠っていたのだろうか。
意識の混濁から抜け出すことが出来ず、未だに
「――今日は随分とお寝坊さんなのね」
「ぁ、っ――」
入ってきたのは、一人の女性。
膝下まで伸ばされた癖のない漆黒の長髪。服の上からでもはっきりとわかる、起伏に富んだ女性らしい肢体。
そんな女性が俺に向けているのは、朝日に輝くアメジストの瞳。切れ長で意志の強そうな鋭い瞳は、どこか慈愛を感じさせるほど穏やかに細められていた。
その女性を、他の何とも
「母、さん――?」
「おはよう。アーク」
目の前で美しい笑みを浮かべているこの女性は、ユーリ・グラディウス。騎士の家を出ていないにも拘らず、大陸最強の一角に名を連ねる実力者であり、グラディウスの血を引く正統後継者。
そして、俺の母親だ。
「あら、どうしたの?」
白く長い指が俺の頬を撫でる。
知らぬ間に、母さんが心配そうに顔を覗き込んで来ていた。しかし、その事を認識していても、俺は身動ぎ一つ出来ない。
ただ茫然と、その顔を見上げているだけ――。
「怖い夢でも見たのかしらね」
「ぁ――」
気づけば、固まって
手で髪を
身体に広がる暖かい感触。
俺はこれを
それなのにも拘らず、俺は
「ふふっ、アークが抵抗しないなんて珍しい事もあるものね」
「――ちょっとボーっとしてただけだから、いい加減離れてくれ……」
「ダメよ。せっかくの機会だもの、息子成分を目一杯補充しなくちゃね」
そんな中、正気を取り戻した俺は、漸く口を開くことが出来た。しかし、何やら嬉しそうに笑っている母さんによって、その意見は言外に握り潰される。
「でも、あんまりアークを独占してると、リリアちゃんに妬かれちゃうわね」
「えっと、なんで……?」
「あら、今日は皆で一緒にダンジョンを探索するのよね? Bランク昇級試験の為に特訓するって、アークが昨日言ってたじゃない」
唐突に離れた母さんから突いて出た発言に、またも茫然としてしまう。
何故なら――。
俺に■、そ■な事を言■■記憶が無■はずだ■った。
「どうしたの?」
「あ、いや……
でも、きっと俺が忘れているだけなんだろう。
思考の中を飛び交うノイズに目を瞑った。
「そうそう。ほら、下で皆が待ってるわよ。成人の儀を終えて戻ってきたばっかりだっていうのに、若い子は元気でいいわねぇ。私も混ざっちゃおうかしら」
「――ったく、少しは、
「むっ! この前二人で歩いてた時は、“仲の良いカップルですね”って言われたじゃない」
「それは、どれだけ上に見積もっても、母さんの容姿が二十代前半にしか見えないからだ。とにかく! 急いで行くから、皆に伝えておいてくれ。後、着替えるからさっさと出て行ってくれよ」
「ん、分かったわ」
ニコニコと笑みを浮かべながら寝室を出ていく母さんの後姿を見送る。
気づけば、思考を遮断していたノイズは治まり、俺は自分の事を鮮明に思い出せるようになっていた。
俺は、アーク・グラディウス。大陸に伝わる名家の一つ――グラディウス家の長男であり、その跡取りとして剣と魔法の腕を磨いている。
家族構成は、父・母・双子の弟。
母さんは一時期体調を崩していたこともあったが、今は万全とは言えないまでも、普通の生活が出来るまでに
他の二人に関しても、グラディウスという名を除けば、他の家庭とそれほど大きな差異点はないし、特に
普通――とは言い難いが、それなりにしっかり家族をやっている。
それから、親同士が取り決めた許嫁が一人。
恋愛だのどうのこうのっていう実感はないが、こっちとも単純に人付き合いとしての問題はない。
天啓の儀で手にした
成人の儀を終え、グラディウス家に戻ってきたのは一週間前の事。旅と並行して冒険者ランクを上げ、現在は“C”にまで上がることが出来ている。
俺の事を一言で表すのなら、歴史に名を残すだとかっていう偉業には流石に縁がないが、今のところは順風満帆といっていい足取りで歩めている新人冒険者だといった所なんだろう。
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