第59話 立ち塞がるは、神話の怪物
「我らとの闘争から生き延びた者――。同様に特異な武器を持つ者――。さあ、我を愉しませろッ!!」
マルコシアスは、巨大な戦斧を手に一歩、また一歩と尊大に接近して来る。
「いつも通りに行くよッ!!」
「了解!」
俺とルインさんは、サベージオルトロスと戦った時の様に左右に分かれて迎撃。アリシアは周囲のモンスターたちに気を配りながら距離を取ると、先制攻撃を仕掛けるべく矢を
「“デルタアロー”――ッ!」
アリシアの放った矢は、マルコシアスの両脚と頭部目掛けて加速する。相手の動きを止める両脚への二射と、本命である頭部へ最後の矢。寸分の狂いもなく三連射された矢は、牽制と言うには殺傷力の高すぎる射撃魔法であったが――。
「ふっ……」
「な――ッ!? 弾かれた!?」
三つの矢は、マルコシアスの全身から噴き出した魔力によって軌道を変え、明後日の方向へと吹き飛んでいく。だが、奴は攻撃という行為に対処したわけじゃない。軽く息を吐くように魔力を放出し、アリシアの魔法を
「でも、距離は詰められた!」
「
巨大な体躯と得物を持つマルコシアスは、典型的な力で押すタイプだろう。腕力や魔力の量が凄まじくとも、大柄故に小回りは利かないはず。機動力を活かして、奴の認識外から高火力を叩き込めば――。
「“青龍雷轟斬”――ッ!!」
「“黒天氷刻斬”――ッ!!!!」
左右から雷と氷の斬撃魔法を打ち込む。俺達の魔法の中でも上位の攻撃。狂化オルトロスの再生限界を優に超える連携攻撃だ。
「ほう……」
「くそっ!?」
「受け止められた!?」
だが、俺達の斬撃は、戦斧を地面に突き刺して両手を空けたマルコシアスによって、それぞれ片手で受け止められ、闇色の魔力を纏った掌を裂くに留まった。
「双方、良い太刀筋だ。どうやら今まで見て来た連中とは、次元を異にしている様だな」
しかし、マルコシアスは動揺など欠片も見せず、俺達の斬撃が魔力防御を突破して刀身を掴んでいる自らの手が傷ついた事に歓喜しているようにも見える。
「それでもッ!!」
ルインさんは更に魔力を放出し、深く食い込んだ傷口に雷光を流しながら偃月刀を押し込んでいく。
「引いても駄目なら、押すしかないな!!」
俺も刀身の逆から魔力を放出し、斬撃の威力を高める。
「“アクエリアヴァニッシュ”――ッ!!」
更に、それを援護するかのように水流の矢が飛来した。間髪入れずに、三方向からの同時攻撃で攻め立てる。
左右どちらかの斬撃、もしくは頭部目掛けて飛来する魔力矢が炸裂すれば致命傷。三人パーティーになってからの必勝パターンだ。
「だが――ッ! 我には、効かんッ!!」
「――ッ!?」
先ほど以上の魔力によってアリシアの矢は防がれ、刀身を押し込もうとした俺とルインさんは得物ごと持ち上げられ、力任せに放り投げられる。
「どんな出力をしているのかしら!? あの化け物は――ッ!」
空中で受け身を取って着地した俺達の背後から、アリシアの苦々しそうな声が聞こえて来た。顔を見なくても、険しい表情を浮かべているであろうことは容易に想像がつく。
「防御にと纏った魔力を超え、我が肉体に傷を負わせるとはな。そして、我を前にしても尚、戦意を燃やしている。嘗ての勇者達を思い出させる良き使い手だ。賞賛に値する」
「嘗ての勇者……一体いつの話をしているんだ!?」
数千年前に誰かが描いた物語を、さも体験してきたかのように話すマルコシアスに対し、俺は声を荒げる。
伝承が残ってる上に魔族なんていう存在が目の前に居るんだから、全く
「貴様らにとっては遠い過去の……我からすればついこの間の話だ――ッ!!」
「ぐっ!?」
だが、さっきまでの尊大な態度から一転、奴の表情が憤怒に変わった。
「最終決戦の折、勇者の聖剣で斬られた我は滅せられる寸前だった。だからこそ、奴の浄化の魔力を体内から廃するべく、永きに渡る眠りについた。そして、悠久の時を経て目を覚ました時、世界は愚かに変質してしまっていた!」
マルコシアスは、自身の身体に残っている大きな斬撃痕を指でなぞりながら、感情を昂らせていく。
「我ら魔族は、絶滅の
攻撃を加えているわけでもないのに、奴の周囲の地面は魔力放出の余波だけで
「だから、戦えない一般人まで焼き討ちにしたのか!?」
「その通りだ!!」
「ふざけないで! 勇者や帝都と関係の無い人間を無差別に襲うなんて……そんなの復讐ですらない!!」
「貴様らは、まだ青いな。人間であるという事……それが罪! 敵は滅する! それが我の正義!!」
マルコシアスが神話の時代から生き残っている旧魔王軍の重鎮である事、人間自体に強い憎悪を持っている事が、奴自身の凄まじい殺気に乗って伝わって来る。だが、俺達はそれに屈するわけにはいかないんだ。
「それを否定したいのであれば、我を下せばいい! 決死の覚悟でかかって来るがいいッ!!!!」
全身から闇色の魔力を放出するマルコシアス相手を見据え、俺達は再び刃を構えた。
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