第50話 二重斬撃

「“ディバインスラッシュ”――ッ!」

「“セレクタウォール”――!!」


 悲鳴の先に向かえば、見覚えのある四つの影。


「くそっ!? 途中まではいい感じだったのに……!」


 それは、前に“咆哮の洞窟”で遭遇した新人パーティーだった。


「連中Dランクじゃなかったのか? しかも、こんなに奥まで……」


 俺の記憶違いでなければ、彼らは冒険者ランクDのはずだ。そして、このダンジョンはCランク。どうやら前回の反省を欠片も活かしてないようだ。

 適当な所で戻らなかった事に呆れるべきか、ボス部屋まで来たことを称賛するべきか――。ともかく、あまり芳しい状況じゃない。


「アリシア・ニルヴァーナ……」


 男衆はそれぞれ盾と剣をもって戦っており、やたらテンションの高かった女は杖からの魔法で彼らのサポートを行っている。そして、最後の一人は弓に魔力の矢をつがえて、淡々と巨大なモンスターを射抜いていた。


「ん、んっ! 何見てるのかな?」


 他の連中と違って随分落ち着いているように見えるアリシアの様子を目で追っていると、わざとらしい咳払いと共に隣のルインさんから肩を肩で小突かれる。


「いえ、別に大したことは……」

「ふーん……」


 いつもよりも一歩近い距離からの半眼のジト目に身を引きたいところだったが、そんな隙を与えてくれる人じゃない。


「それよりも、アレどうしますか?」

「まあ、見ちゃったものはしょうがないよね」


 強烈な威圧感を流すために、自然を装った体で話題転換を図る。結果は上々。まあ、十割方連中の自業自得とはいえ、曲がりなりにも顔なじみだし、見捨てるってのも気分が悪いしな。


「それはそうとして、アーク君は戦える状態なの? 初めての魔力変換だったし、あれだけ派手に放出したから、結構しんどいと思うんだけど?」

「まったくニュートラルの状態と同じってわけじゃないですけど、全然問題ないですよ。寧ろ、今は体を動かしたい気分です」


 ルインさんの心配はこそばゆいが、今は掴みかけた感覚の練度叩き上げる絶好の機会だ。色々と試してみたいし、退く理由はない。


「そっか。アーク君なら大丈夫だと思うけど、退き際だけは見誤っちゃダメだよ。今日はいつもより疲れてるんだし、相手はBランク・・・・のボスモンスターの一種――エスキスリザードマン。下級とはいえ、竜種だからね」

「Bランク……!? あの時と同じ……!」

「うん。が本当だったって事だね。この国に来た甲斐かいがあったかな……」


 本来、分布しないはずのモンスターがダンジョンを闊歩かっぽする。それは、先日この連中と遭遇した時と同じ状況。

 ルインさんが追っている何か・・に繋がる状況。


「それじゃ軽く人助けしたら、今日のお疲れ様会でもしよっか? ご褒美は何がいい?」

「ご褒美って……」


 例のパーティーの戦線維持が困難になった所で、俺達はボス部屋に乱入する。


「アンタらは!?」

「――っ?」


 後衛の女子二人から視線を向けられるが、今は丁寧に答えている場合じゃない。眼前には俺達の倍はあろうかという体躯を持つ、緑の鱗で覆われた翼の無い竜。


「あ……昨日の女の人が言ってたみたいな、えっちなのは駄目だからね!?」

「ちょ――!?」


 隣には、若干頬を赤らめながら睨みつけて来るルインさん。よって、驚く阿呆三人とアリシアはアウトオブ眼中だ。


「なんで自分でそっち方向に持って行くんですか!?」

「アーク君が、あの人に詰め寄られて顔赤くしてたから……!」


 ルインさんが振るわれたリザードマンの剣を偃月刀で受け止め、俺は空いた胴に処刑鎌デスサイズの石突を叩き込む。


「あんな風に詰め寄られてデレデレして……!!」

「誤解だと大きな声で言いたいですね!」


 更にもう一撃石突を叩き込むとリザードマンは身体を九の字に曲げ、ルインさんが偃月刀を振るえば、巨大な体躯ごとフロアの内壁へと吹き飛んでいく。


 そして俺達は地を駆け、相手が体勢を立て直すよりも早く追撃をかける。


「私が居なかったら、手取り足取り教えて貰ってご褒美貰えたかもだもんね!!」


 “青龍零落斬”――剛裂な刀戟が差し出されたリザードマンの剣を叩き折り、その余波で左腕を捻じり飛ばす。


「なんでそんなに不機嫌なんです……か!?」


 “真・黒天新月斬”――激痛に悶え苦しむリザードマンの首を凍気・・を発する加速斬撃で断ち穿つ。


(ちっ! 完全に変換しきれなかったか……。流石にそう都合よくはいかないもんだな)

「す、すげぇ……」

「あ、あぁ……」


 リザードマンを撃破すると、阿呆その一、その二が何かを呟いた。竜の牙ドラゴ・ファングも一目置くルインさんと連携したんだから、勝てて当然。実際、そんなに驚くような事じゃないと思うんだが――。

 俺的には、足手纏あしでまといならないように連携を取ることが出来たという事の方が印象に残ったくらいだ。


「アーク君がなんでって、言えちゃう所にかな」

「え、えっと?」


 見事にボスモンスターを撃破したは良いもの、ルインさんから刺々しい視線が向けられる。

 なんだかんだと言っても異性と二人旅。恋愛云々を関係無しにしても、相方が異性に詰め寄られてるをの見ると釈然としないんだろう。万が一、旅先でルインさんが逆ハーレムでも作った日には、卒倒する自信があるしな。


「お姉さん流石! 女神! バブみ!」

「最高! 最強!」

「Yeah!!」


 そんな時、阿呆たちの陽気な声がボス部屋中に響き渡り、ルインさんもあまりの能天気さに呆れたからか追及の手が和らいだ。


(まさか、頭の悪さ全開のノリが役に立つ時が来るとは――というか、この国の人間に対して、ずっと胸に突っかかってた既視感はこれか……)


 その場で跳ねながらテンションを爆上げしている阿呆二人の陽気なノリは、歩く猥褻わいせつ物こと筋肉店主を筆頭にしたこの国の連中に酷似している。つまり、このパーティーは、ローラシア王国出身か、例の大型ギルドを拠点にしていたパーティーだって事なんだろう。


 これほど説得力を感じる凡例もそうないだろう――と思っていた時――。


「――■■、■■■――■■――!!!!!」


 悲鳴のような咆哮が俺達に襲い掛かる。


「ち、ちょっと……何なのよ、アレは……ッ!?!?」

「ば、化け物だ!?」


 視線を向ければ、欠損したはずの首から上と左肩から先が再生しているリザードマンがゆらりと立ち上がっていた。凄惨で在り得ない光景を前に、新人パーティーが言葉を失っている。


「あの超速生成……狂化か!?」


 眼前のリザードマンは全身を肥大化させ、傷口から鮮血を滴らせながら狂ったように咆哮を上げている。


 そして、その在り得ない光景は、俺達にとっては既知のモノ――。


 因縁深い現象に刃を向けようとした俺だったが――。


「――ッ!?」


 隣のルインさんが此方になんの指示もなく砲弾の如き勢いで飛び出した。これまで見た事がない程の冷たい激情を瞳に宿しながら――。

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