第9話 黒天穿ツ刻
ギルド近郊にあるEランクダンジョンにて――。
「これがダンジョン、ですか……」
俺は目の前に広がる洞窟のようなダンジョンを注視しながら足を進めている。周りに広がる光景は、俺にとって新鮮その物だったからだ。
「アーク君はダンジョンデビューが鮮烈だったから、物珍しいのも無理ないよ。Bランクとは、大分感じが違うでしょ?」
「そうですね。威圧感がそれほどじゃないというか、ちょっと明るいというか」
ダンジョンの難易度が上がるにつれ、街からの距離が離れる傾向にある。当然、出没するモンスターも強くなっていくし、立ち入る人間が少ないので無法地帯だ。
そのBランクダンジョンと脱初心者用のEランクとでは、入り口付近から感じが違うってことか。
そもそもダンジョンってのも人間が勝手に定義しているだけだから、辺境の地ほど凶悪なモンスターが多いってだけなんだけどな。ダンジョン外にも普通にモンスターは出没するし――。
「アーク君、そろそろ気を引き締めてね」
「はい!」
他事を考えていた俺は、ルインさんに促される形で刃が収まった待機状態の“虚無裂ク断罪ノ刃”を呼び出す。
「今回の依頼は、カーバンクルの宝石が四つ、フォルフの牙が十本、マンドラゴラが十五本、オーガの牙が二本。それから……」
「それからって、どれだけ欲張って依頼を受けて来たんですか?」
「うーん、Eランクのこの辺で出来そうな依頼は片っ端から受けて来たよ。それぞれ重複したりはしてるけど、これだけの素材は持って帰るつもり」
俺の発言を華麗にスルーしながら依頼の手配書の内容を読み上げたしたルインさんには、さっきまでのぽわぽわした感じがない。ガルフたちに置き去りにされた俺を助けてくれた時と同じ、鋭い雰囲気を纏っていた。
そんなルインさんに影響されてか、否応なく緊張感も高まっていく。
「――ッ! モンスター!!」
そんな事を考えていると、狭い洞窟だったダンジョンの空間が突然広がる。そこには、図鑑で見たり話に聞いたことのあるモンスターたちが、我が物顔で
「私は危なくなった時しか手を貸さないから、出来るだけ一人で戦ってみて」
「は、はいッ!」
ルインさんの口ぶりからは、
冒険者として挑む初めてのダンジョン。
初めてのモンスター。
あの日の誓いを果たすため、前に進むしかない。
「行くぞ――ッ!!」
眼前で雄叫びを上げた小狼――フォルフを前に、
結晶に光を灯し、刃を展開して戦闘形態に移行した“虚無裂ク断罪ノ刃”を手に、俺はダンジョンを駆けた。
「はっ――!!」
相手の攻撃態勢が整う前に一太刀を浴びせるつもりで、思い切りダンジョンの床を蹴り飛ばして加速。一気にウォルフへ肉薄する。
「これでっ!!!!」
そして、“
奇襲の一撃でウォルフの首を
「一撃……!?」
俺はウォルフに死を悟らせる間もなく、一太刀で斬り殺した剣戟の威力に自分でも驚きを隠しきれないでいた。
何故なら、実質今日から冒険者デビューしたような俺が、初心者には難関であろうEランクにカテゴライズされるモンスターを一撃で倒してしまったのだから――。
「
まさかの結果に驚きはあるけど、嬉しい誤算に変わりない。
「今は悩んでても仕方ない。とりあえず……目の前にいる敵は全て斬る!!」
もう何もできない俺じゃない。前に進む。
これはその為の一歩なんだ。
「はあああぁぁ――ッ!!」
“虚無裂ク断罪ノ刃”を振り上げながらモンスターの山に突っ込むと、額に宝石を付けた小型モンスター――カーバンクルを一太刀で斬り裂く。
「何だ……この感覚……」
直後、
だが、モンスターが大軍で押し寄せて来るのにも拘わらず、俺の心には波紋一つ起きることはない。“虚無裂ク断罪ノ刃”に漆黒の魔力を纏わせ、ごく自然とモンスターへの迎撃態勢を取っていた。
「斬る――ッ!!」
漆黒の刀身を巨大化させた“
重量級の武器なので扱いには少し難があるけど、剣や槍とは違って広範囲の敵を一掃できるのが、“
「は――っ!!」
上段から一閃。
ウォルフとカーバンクルを二匹纏めて斬り裂いた。
試運転とは思えないくらいには順調に戦えていると思うけど、流石に数の差は埋めきれず残りの十体に囲まれてしまった。そんな俺に対して、これ見よがしとばかりにモンスターたちが飛び掛かって来る。
「遅いッ!!」
キラーフラワーの緑の触手を斬り払うと同時に背後に飛ぶ。
周りを囲まれている関係上、背後には唸り声を上げるウォルフと、尻尾の棘を向けて来るサンドスコーピオン。
定位置で
「後方注意――ッ!!」
滞空中に柄を持つ手を滑らせ、刀身側ギリギリに持ち替えると、“
背後の二体を魔力で強化した逆突きで仕留めた。
「残りは――八体!!」
だけどまだ安心は出来ない。周りを見渡して、残りの連中との位置関係を瞬時に把握し、最後の一撃を放つ為に再び刀身に漆黒を纏わせる。
「“
持ち手を定位置に戻し、軸足に体重を乗せて横向きに大車輪。円周状に漆黒斬撃を放ち、残り八匹を纏めて斬り飛ばした。
「身体が軽い。初めて振り回すはずなのに、異様に手に
グラディウス家の奥義の一つを、俺なりにアレンジした一撃。
「何とか……なったのかな」
俺はようやく戦えるようになった自分と、巡り合えた武器に確かな手応えを感じていた。
「アーク君ッ! 凄いよ! 私、途中で止めに入ろうと思ってたのに……全部一人で……!」
「ぶ、っ――ッ!?」
その数秒後、興奮したルインさんに抱き着かれてしまい、豊満な胸で呼吸を塞がれて圧殺されかけたのはここだけの話――。
役得だけど、モンスターよりも凶悪だった。
おっぱいすんごい。
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