第7話 処刑鎌《デスサイズ》

「えっと、この剣ってどういう名前なんですか? 見た事ない形ですけど……」


 俺が真っ先に手に取ったのは、世間一般で言われる剣よりも薄く、反りのある刀身をしている武器。

 装いは全然違うけど、剣って事は何となくわかる。もしこれに適性があったら、特異職業ユニークジョブ持ちの剣使いになれるかもという、ほのかな希望を胸にセルケさんにを聞いた。


「うーんとねぇ……これは刀っていうそうだよ。使い方は、見たまんまだろうね」


 カタナ――その美しい形状に心を奪われていたが――。


「まあ、アー坊とは気が合わないみたいだけどねぇ」

「はぁ……」


 武器が反応しない。つまり適性無しって事だ。


「そんなに落ち込まないで、まだ一回目だよ!」


 肩を落とす俺を励ましてくれるルインさん。大変嬉しいのだが、些か距離が近い様な……。正面には美人さんのお顔。目線を下げても大きな胸が広がっており、目のやり場に困ってしまう。


「つ、次に行きましょう!」


 セルケさんの生暖かい視線を背に次の武器を取った。


「これは……どことなく青龍偃月刀に雰囲気が似てますね」


 次に手に取ったのは、幅広に湾曲した刀身を持つ剣。


「流石はグラディウス家、よく見てるもんだね。それは――柳葉刀りゅうようとう。アンタの言う通り、偃月刀とは同郷さ。またハズレみたいだけど……」

「ぐっ!?」


 セルケさんの言葉が胸を打つ。パッと見た感じ、剣士系っぽいのから手を付け始めたのだが、刀剣でこうも空振りが続くとやはり胸に来るものがある。


 こうなれば片っ端から武器を試していくしかない。


 半ば自棄やけで奮起した数時間後――。


「ふふっ……やっぱり俺は無職ノージョブなんだ…‥」


 俺は絶望に打ちひしがれていた。


 手裏剣・苦無くない多節混ヌンチャク・ナタ・トンファー――他にも名前を覚え切れなくなるくらい多くの武器を試し終えた。

 だけど、全て空振り。軽・中量級の武器が全滅だったことで、やっぱり無理なんじゃないかと心が折れかけていた。


「あ、アーク君! しっかりして!」


 頑張って励ましてくれるルインさんには悪いが、残るはゲテモノ揃いの重量級ゾーンのみ。


 木の棒の先に巨大な横向きの鉄の塊が刺さってる棍棒に見える鉄槌ハンマーだとか、鎖の先に球体が付いてるだけの何をするか分からないような武器ばっかりだ。

 潜在的な才能が……というか、見るからに俺では使いこなせそうもない。


「はぁ……ここに無いんだったら別の武器屋に行けばいいだろ!? さっさとやりな!」


 セルケさんに一喝いっかつされた俺は気乗りしないながらも、最後の区画に歩き出す。二人の好意に甘えているんだし、無職ノージョブの今に甘んじるわけにはいかない。


 そう思っていた。


「――っ! これ、は……」


 重量級ゾーンにあるのは、さっきの刀や柳葉刀りゅうようとうと違ってわけの分からない武器ばっかりだったけど、俺の視線はその中の一つに吸い寄せられた。


「斧……? でも刃がないし、鉄棒メイスにしては細すぎる」


 全体的に鋭角で細身の長い柄。

 柄の先には紅い結晶が収まっており、そこを中心に鋭角な十字が折り重なる。ただし片側にだけ丸みを帯びた大きなパーツが接合しており、左右非対称。

 それは不思議な形状。


 気づけば俺は、その漆黒のナニカに手を伸ばしていた。


「何だ、この感覚……」


 柄を握った瞬間、何かが繋がったような感覚、欠けていた半身が戻って来たような感覚が俺を襲った。

 今までに感じた事のない不思議な感覚だった。


「――ッ!?」


 そして、柄に収まっていた紅い結晶が光を放つと、目の前のソレが姿を変えていく。片側に付いた丸みを帯びた大きなパーツが起き上がり、緩やかに曲線を描く刃になった。


 茫然とそれを見ていると、身体から何かが流れていくような感覚と共に、かつて天啓の剣に灯った漆黒の光が刃に重なり、より巨大で鋭い魔力の刀身を形作る。


「……どうやら見つけたようだね。アンタだけの武器を! そいつは“処刑鎌デスサイズ”――“虚無裂きょむさ断罪だんざいやいば”。」


 俺だけの武器――。


「そんじゃ、アンタの特異職業ユニークジョブは、“処刑者エクスキューショナー”ってとこかね?」


 俺だけの職業ジョブ――。


――これで、やっと母さんの想いに報いる事が……。


 どこか禍々しくもある漆黒の処刑鎌に見惚れ、セルケさんの楽しげに呟きに俺の心は打ち震えていた。


「やったね、アーク君! これで冒険者になれるよ!」

「ちょっ!? ルインさん!」


 そんな時、背後から何かがぶつかって来たような衝撃に襲われた。原因は声の主であるルインさんにある。

 自分の事のように喜んでくれるのは嬉しいし、全部彼女のおかげではあるけど、いきなり後ろから抱き着かれるのは色々まずい。

 主に背中に暴力的な柔らかいものが押し付けられていたり、後ろから良い匂いがしたりとあって落ち着かない。


 その後、揶揄からかううようにセルケさんまで引っ付いて来て、完全にパニックになったのは余談だ。


 何はともあれ、無職ノージョブから脱却できた。俺もやっと歩き出す事が出来そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る