星を探すステラ

宇原芭

星を探すステラ

 ステラは重苦しい夜空を見上げて、渦巻く闇に嘆息した。広げた本の白い項は、灯火の橙色に染まっている。隣で夜空を見上げていたジンジオじいさんに、ステラはおそるおそる声を掛けた。


「この本には星のことが書いてあったよ」


「それは昔の本だから昔のことが書いてある」


ジンジオじいさんは素っ気なく、口ひげをもごもご動かした。


「もう星は見れないの?」


ステラは指差された方に首を向けた。ジンジオじいさんが指差した先には、螺鈿でできた螺旋階段がある。


「あの階段を上っていけば、星の見える空まで行ける。けど今日はもう無理だ。夜が白む前に戻ってこないと、帰れなくなるから」


ジンジオじいさんはステラの頭に軽く触れると、家に戻っていった。


 ステラはベッドの中で、教えてもらった螺旋階段のことを考えていた。螺鈿の階段はとても綺麗だった。青っぽい白い光と、緑っぽい白い光と、朱色の三色を煌かせていた。きっと星はもっと綺麗に違いない。眠れなくなったステラは玄関へ行き、靴を履いた。冷気が心地良い。


 外は寒いほどに冷えていた。吐く息が白くなり、肺の底から冷たくなっていく。ブランケットを羽織っていたが、足元が寒い。ステラは家に戻ろうかと迷ったが、夜が白みかけていたので、急いで螺旋階段に向かった。


 階段はガラスで出来たみたいに半透明で、やはり美しかった。けれどなんだか面白味に欠けた。ステラは星を楽しみに、階段を駆け上がった。体が火照っていく。寒風が吹く。


 どれだけ階段を上っても、星は見えなかった。ステラはジンジオじいさんを疑った。それでも星を見たい一心で、ジンジオじいさんを信じることにした。やがて、夜空の真っ暗な部分に辿り着いた。ここに来て、ステラはうっすらと、自分の体が光っていることに気付いた。


 階段を上れば上るほど、自身の光が強くなっていく。ステラが朝くらいの光を放つようになったとき、ステラは夜が白み、もう陽が昇り始めていることに気が付いた。


 引き返そうとしたとき、そこに階段はなかった。ステラは茫然と立ち竦み、自分はずっと一人ぼっちなんだなと考えた。




 その夜、暗闇にぽっつりと光る星があった。ジンジオじいさんはそれを悲しそうに見詰めていた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星を探すステラ 宇原芭 @delicioustakuan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る