第407話 閑話:寵妃の苛立ち



マリージュアside





なぜ、上手く事が進まないのか。

長い時間をかけ、リュストヘルゼ帝国の皇帝であるガルドフェインを魅了したと言うのに。



「くっ、全ての計画が水の泡だわ。」



苛立ちに爪を噛む。

ここまで、順調に進んでいた侵攻。

その全てが一瞬で壊され、逆にこちらが追い込まれている。



「っっ、これも全てニュクス神の娘だと名乗る女の存在があるから!」



何が愛し子だ。

その存在で一気に神敵となったリュストヘルゼ帝国。

これでは戦を広げる大義名分がなく、私の思う通りにならない。



「・・一体どうすれば。」



戦果は広がる?



「ーーー・・マリア。」

「っっ、陛下、お目覚めになられたのですね。」



青白い顔でベットに起き上がるガルドフェインへと駆け寄ると、妖艶に微笑む。



「陛下、体調はどうですか?」

「少し怠いが大丈夫だ。マリア、戦の状況はどうなっている?」

「ご心配なく、陛下。全て順調ですので。」

「そうか、そうマリア言うなら間違いなく勝利するだろう。自分の手で勝利を掴み取れぬのは口惜しいが、次の戦では存分に奮起しよう。」

「ふふ、大事な御身をお労りください、陛下。さぁ、まだお眠りを。」



私の魔法で眠りにつくガルドフェイン。



「ふん、バカねお前が戦に出る事は最後になるまで無いわ。」



眠るガルドフェインを鼻で笑う。

大事な傀儡でる身だから病気に見せかけ足止めしているだけで、この世界の崩壊までガルドフェインを戦へ出す必要はないのだ。



「お前はここで傀儡として寝ていれば良いのよ。」



身を翻し隣室へと移動する。



「しかし、このまま何の柵も弄さなければ、この国は終わるわね。」



終われるものか。

愛おしき魔王様を奪ったこの世界を壊すまでは。



「ーーー誰かいるかしら?」



外へと声をかける。



「はっ、お呼びでしょうかマリア様。」



私へと跪く兵士。

私が魅了した兵士の1人でもある。



「陛下がガルムンド王国への再侵攻をお望みです。できますね?」

「ガルムンド王国へ向かわせる兵の数が足りませんが、いかが致しましょう?」

「そんなもの民衆から集めなさい。陛下の為に動かぬ者は切り捨てて構いません。」

「承知いたしました。」



部屋から兵が出て行くのを冷めた目で見送った。

この王宮に残るのは、ガルドフェインと同じく全て私に魅された者だけ。

私の邪魔をする者はいない。



「ーーーは?街の中に入れない?」



数時間後。

私は耳を疑うような報告を受け事となる。

曰く、兵を徴収する為に近隣の街に人を向かわせたが、中には入れないのだと言うのだ。



「・・この私をバカにしているのかしら?」



街の中に入れない?

何を馬鹿な事を言っているのか。



「う、嘘ではありません、マリア様!!誰1人として街の中へ入れないのです。まるで、結界か何かに阻まれるかの様でした!」

「結界?」



私は目を細める。

まさか、ニュクス神の愛し子が何か策を弄しているの?



「・・他の街はどうなの?」

「他の街へも人を向かわせましたが、おそらく全て同じかと思われます。」

「そう、お前も兵の徴収へと戻りなさい。」

「はっ、失礼致します。」



閉まるドア。

そのドアに向かって、私は紅茶の入ったカップを投げつけた。

砕け散るカップ。



「っっ、どこまでも私の邪魔をすれば気が済む!」



忌々しい。

砕け散ったカップを見つめ、ほぞを噛む。



「こんな所で私の計画を狂わせられてたまるもんですか。何としてもこの世界を崩壊へ導いてみせる!」



おそらく、街の中へ入れないのはニュクス神の愛し子のせいだろう。



「ガルドフェインの勅命だとしても、街の中へ入れないのでは意味がないわね。」



では、どうするか。

このままでは兵にする者が集まらない。

再度の進軍など不可能。



「っっ、ニュクス神の愛し子さえいなければ、」



いなければ?



「そうね、邪魔な女を排除しましょう。」



ニュクス神の愛し子だと言う女が自国の王城で死ねば新たな争いの火種が生まれる。

私にとっても好機。



「ふふ、ここまで私の邪魔をしたんだから最後は役に立ってもらうわ。」



ニュクス神の愛し子が死に、責めを負うのはガルムンド王国。

その国を滅ぼす様に仕向ければ良い。



「そうと決まれば、私自らニュクス神の愛し子の排除へ動きましょう。」



この王宮へ残るのは無能ばかり。

私の命令だけを聞く人形にすぎない者に頼るのは無理だ。



「必ず、この手で息の根を止めるわ。」



口角を上げる。

そして、新たな火種を広げるのだ。



「そうと決まれば、ガルドフェインを起こしましょうか。」



彼には役に立ってもらう。



「ふふ、囮としては十分に役立つもの、ガルドフェインは。」



ガルムンド王国の目を進軍する兵の前線にいるガルドフェインに向ければ、私も動きやすくなると言うもの。

新たに進軍する兵とガルドフェインの動向を注視するガルムンド王国の隙をつき、私はニュクス神の愛し子を始末してしまえばいいのだ。



「ーーー・・陛下、起きてくだいませ。大切なお話があるのです。」



目を覚ましたガルドフェインへ甘く囁く。



「陛下が兵を束ねる時ですわ。その手に栄光の勝利を得るのです。」



さぁ、始めよう。

新たな火種を広げるために。



「あら、遅かったのね?待ちくたびれるところだったわ。」



なのに、どうして?

ニュクス神の愛し子と名乗る女は平然と微笑んでいる。

私が来る事を知っていたかの様に。



「ふふ、遊びましょう?リュストヘルゼ帝国の皇帝、ガルドフェイン様の寵妃マリア様。」



悠然と座ったままの女。

楽しげに。

愉快そうに微笑み、告げた。



「ーーー・・いえ、こう呼んだ方が良いかしら?魔族のマリージュア様?」



私の素性を。



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