第336話 依頼
この聖皇国パルドフェルドで知り合った冒険者達。
最初は煙たがれていたが、私達の冒険者ランクと堅実な仕事の姿勢に緩和された者達から次第に話す事が増えっていった。
今では顔見知りの冒険者も多い。
「・・ディアレンシアちゃん、今の話を聞いてたのかい?」
「困ったな、俺達はニュクス様の事を非難したつもりはないだ。」
荒くれの冒険者が困った様に頬を掻く。
「ふふ、分かっています。ですが、どこに神官の耳があるとも知れないので、十分注意してくださいよ?」
この聖皇国パルドフェルドは、ニュクスお母様への信仰が厚い。
なので不用意な発言は厳禁。
不用意な発言で、ニュクスお母様の神敵として教会に捕縛される可能性だってあるのだから。
「折角仲良くなった皆さんが捕縛されたら、私はとても悲しいです。」
目尻を下げる。
「うっ、き、気をつけるよ。」
「ディアレンシアちゃんを悲しませる様な事はしないさ!」
顔を染める冒険者達に私は頬を緩ませた。
「はい、気をつけてください。」
ーーー私の為に。
この聖皇国パルドフェルドで、私の味方になってくれる人間は1人でも多い方が良い。
それが力を持つ冒険者達なら、なおの事。
本心を覆い隠し、私は笑った。
「クレアさん、何か良いクエストはありますか?」
「ディアさん、こんにちは。私がおすすめ出来るクエストですと、この辺りでしょうか?」
私にクエストの紙を差し出すのは、ギルド職員のクレアさん。
とても良くしてもらっている。
「うーん、郊外の森でのモンスター討伐ですか。」
「お気に召しませんか?」
「今は外へ出るのを控えようかと。魔族の活動が再開されたようなので。」
「あぁ、」
曇るクレアさんの顔。
「他の冒険者の方達も同じような事を言ってました。最近では、外へ出るクエストを受けてくれるのは、生活に困っている方達だけなのです。」
「そうでしょうね。」
私は頷く。
いつ、どこで魔族と遭遇するか分からない。
そんな中、城壁に囲まれている街の外へ出る者は少なくなる事だろう。
「かと言って、迷宮へは入れないですし。」
「今、勇者様達が迷宮の中へ入っているんですよね?」
「はい、ですが、この1ヶ月、勇者様一行はなかなか思うように迷宮内を進められていないようなんです。」
クレアさんが溜め息を吐く。
「このままでは、皆さんがいつ迷宮へ入れるのかと気を揉んでいるんですよ。」
「クレアさんも大変ですね。」
私達以外の冒険者達にも色々と言われているのだろう。
その顔色は、少し悪い。
「街中で出来るようなクエストもないようなので、今日は私達は帰りますね?」
「ふふ、ディアさん達のような実力のある冒険者さんが街中で出来るようなクエストを受けようなんて思うなんて不思議です。普通なら、依頼料が高いクエストを選ぶんですけどね。」
浮かぶ苦笑い。
「まぁ、私達からしてみれば、ディアさんみたいに何でもクエストを受けてくれる方は有難いですよ。」
「安全が第一ですから。」
私達の名前がギルド内で浸透した今、必要以上に無理する事はないだろうし。
その為に、この国で今まで頑張ってきた。
全ては、そう、種を蒔く為。
「クレアさん、また明日にでも来ます。」
「はい、待ちしていますね、ディアさん!」
笑顔のクレアさんに背を向ける。
「ーーー・・少し待ってくれないか、ソウルくん。」
そのまま歩き出そうとした私の足は、名前を呼ばれて止まった。
声の方へ振り返る。
「何でしょう、ギルド長?」
私を引き止めたのは、この皇国のギルドを統括する長であるミルドレイ。
「ちょっと時間をくれ。別室で話がある。」
「・・・話、ですか。」
細まる、私の瞳。
「分かりました、今日はクエストも受けないですし、ギルド長のお話をお聞きします。」
「あぁ、助かる。」
安堵するギルド長の案内で別室へ移動する私達。
「ーーーで、ギルド長が自ら私に話とは、一体、何でしょう?」
ソファーへ腰掛けた私が首を傾げる。
「ソウルくん達に是非にも受けて欲しい依頼があるんだ。」
「私達へ依頼、ですか?それは、私達への個人指名でしょうか?」
「あぁ、今回の依頼の内容は、迷宮内での討伐の協力と支援。」
「迷宮・・。」
・・あぁ、ついにこの時が来たんだね。
私は拳を握った。
期待に私の胸が高鳴っていく。
「ですが、今の迷宮内には勇者様達一行が入っていますよね?その依頼をされた方は、迷宮へ入る許可を与えられているのですか?」
「それは何の問題もない。今回の依頼をされた方は国の上層部で、これは勇者様の為の協力と支援なのだからな。」
種が芽吹く。
毒を含んだ大輪の華となって。
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