第337話 依頼の受諾
私が恋焦がれ、待ちに待った、あの男へ近付く為の切符。
どれほど、この日を待っただろうか。
「ディア様、大丈夫です。ここに、あの男はいません。」
「何も貴方が恐れる事はありません。私達が貴方のお側におります。」
何度、悪夢に飛び起きた事だろう。
悪夢に怯える度、皆んなに慰められ、この日まで堪えてきた。
全ては、あの男への復讐の為に。
「まぁ、勇者様の為の依頼なのですね!」
瞳が輝く。
ねぇ、相馬凪、ようやくだよ?
やっと、貴方に会える。
「もしかして、勇者様達に会えるのですか!?」
期待に身を乗り出す。
終わらせよう。
貴方が私に与えた、悪夢を。
「あぁ、この依頼をソウルくんが受けてくれるのなら、迷宮内へ勇者様達と共に入る事になるからな。必然と勇者様と顔を合わせ、話す機会もあるだろう。」
ミルドレイが首を捻る。
「ソウルくんは、そんなに勇者様と会いたいのかね?」
「ふふ、当たり前ですよ、ギルド長。」
深まる私の笑み。
「今話題の勇者様ですよ?とても勇者様にお会いしたいに決まってるじゃないですか。」
ねぇ、相馬凪?
貴方も私に会える事が嬉しいと思ってくれるでしょう?
「では、この依頼を受けてくれるかい?」
「はい、もちろん喜んでお受けいたします。」
大きく頷く。
頷く私に、ギルド長は安堵の息を吐いた。
「依頼を受けてくれて助かる。今この国にソウルくん達以上に高ランクの冒険者はいないからな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
私達の地道な努力が報われた瞬間である。
全ては、あの男へ近付く為。
「ギルド長、それで私達が勇者様達と合流するのはいつになりますか?」
「ソウルくん達の準備が整い次第、勇者様達一行と一緒に迷宮へ向かってもらう。君達の準備が出来たら、まずは勇者様達がいる王城へ向かってくれ。」
「勇者様達は迷宮ではなく、今は王城に?」
「うむ、戦力の増加が済むまで王城でお休みになっていらっしゃるとの事だ。」
歪みそうになる顔。
良いご身分ですね、勇者様?
迷宮攻略も進ませず、お城で悠々自適の生活ですか?
「分かりました。勇者様達の迷宮の進みが思うようにいってないと聞きましたが、今は何階層まで到達を?」
「28階層だと聞いている。」
「・・28階層、ですか。」
この聖皇国パルドフェルドの迷宮は、全70階層からなる。
中で出現するのはアンデット系が多く、光魔法か聖水がないと迷宮攻略は難しいと言えるだろう。
1ヶ月で、28階層。
「ギルド長、失礼な質問ですが、勇者様は光魔法の適性があるはずでは?それにしても、迷宮攻略が進んでいないのは可笑しいと思うのですが?」
ここまで迷宮攻略が進まないのは不思議だ。
あの男のスキルに光魔法があるなら、アンデットに遅れをとるとは思えない。
「うむ、ここだけの話、光魔法のスキルは得ているらしいが、勇者様のレベルの上がりが思ったよりも遅いらしく、モンスターを倒したくとも魔力量がすぐに枯渇してしまうのだそうだ。回復薬や、回復係を担当する者がいても、魔力量の回復に追いつかないのだと聞く。」
「へぇ?」
さすが、偽の勇者。
勇者の称号があっても、落ちこぼれなのね。
「私、勇者様が心配です。」
目を伏せる。
私以外の手で死ぬなど、許せない。
あの男は、私のこの手で地獄へ叩き落とすのだから。
「なのでギルド長、すぐに準備を進めて勇者様達がいらっしゃる王城へ向かいたいと思っているのですが、よろしいですか?」
「あぁ、この紹介状を城の者へ見せてくれ。城へのソウルくん達の俺からの推薦状と、この皇国での討伐と実力がいかに優れているか書いてある。」
差し出される封筒。
まさに、あの男へ繋がる切符である。
大切に受け取る封筒。
「ソウルくん、気を付けて、この指名依頼を終わらせてくれ。君達の活躍に期待しているぞ。」
「はい、ギルド長の期待に添えるように頑張ります。」
ソファーから立ち上がる私達。
そのままドアの方へと進むが、私は足を止めて振り返る。
「ーーーギルド長、1つ聞きたいんですが。」
「何だ?」
「本当に勇者様がこの世界を救ってくださるとお考えですか?」
勇者は、相馬凪は、この世界の希望。
本当に?
信じている人間がどれだけいるのだろうか?
「・・俺は敬虔な信者ではないので、そこまで勇者様の事を信じてはいないが、世界の為には必要な存在なのだろう。俺はただ、愛するこの皇国を守る事を考えるだけだ。」
「ふふ、正直者なんですね、ギルド長は。」
浮かぶ苦笑い。
ギルド長は、私の事を憎むだろうか?
「なら、この皇国を愛するギルド長の為にも、勇者様達への支援と協力を頑張ります。」
憎んでくれて良い。
この皇国を壊す私の事を、絶対に許さないで。
例え真実を知る事は無くても。
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